第16話 継がれる優しさ


『何故そうも甘いんだ』


『ふふっ、私食べ物じゃないから甘くないけど?』


『いや、そういった意味じゃない……』


『…………誰かに優しくされたら、温かな気持ちになるでしょう? そうしたら、次は誰かに少しだけ優しくなれるの。そんなことを繰り返して……いつしか優しい世界になれる。ふふっ、私はそう思ってるよ』


『訳が分からん』


『分かるよ。アストライアだって初めは汚い言葉使ってすぐに人を蔑んでたけど……ふふっ、今は違うでしょう?』


『……』


『大丈夫。いつの日か、アストライアも誰かに優しさを伝えられるから』


 ◆  ◆  ◆  ◆


「さて、お主達二人の勝利だ。胸を張ってこの領土の王バーエンに会うとしよう。くれぐれも失礼の無いようにな」


 剣闘戦の賞品として、グランの王様バーエン?という人に会うことになった。

 名目上では謁見が主な賞品で、メルクスは副賞品になっているらしい。

 王様とかどうでもよくて、早くメルクスを連れて宿に行きたい…………もう夜を越えて朝だよ?


【……フィオル、服についている頭巾を深く被っておけ。顔が見えないようにしろ。四の五の言わずさっさとやれ】


「四の五の? じゃあ一二の三ならいいの?」


 無言のアストライアが少し怖かったので、大人しく言う事を聞き深めに被る。

 見られちゃいけない理由があるのかな?


 大きな扉を城の兵士が数人がかりで開けると、綺羅びやかな間。それに負けない程の装飾品を身に纏った王、バーエン?が現れた。

 大きな身体……私四人分くらいありそう。


「先の剣闘戦、見事であった。少々不可解な事はあったが……機転の効く判断、素晴らしき剣技。さて、フィオルとやら。顔を上げ見せてくれ」


【目を閉じろ、開けるな。問われたことは我の言葉を復唱すればいい】


 アストライアからメギスでの会話。

 言われた通り、目を瞑り顔を上げた。


「……そなたは目が見えぬのか?」


【…………はい、「私は生まれつき目が不自由で、光と魔力を頼りにしています。隣にいる守護者様と同じです」


「成る程。生まれはどこになる?」


「ここより西にある小さな村です。三兄妹の末子として生まれました」


「……家族で都に出向いたことのある者はいるか?」


「…………私が生まれる随分前、父が行ったと聞いています。怪我をしていたところを守護者様に助けられ、王宮に入ったことがあると自慢していました。その時王宮で貰った魔石は私の御守として携帯していましたが、今日の剣闘戦で使用してしまいました。温かな不思議な魔力でした」


「そうかそうか、そんな縁があったのだな。よし、あの龍を持って来い」


 龍ってなんだろう……

 それに今の会話……まるで想定されていたかのようにアストライアは受け答えをしていた。

 モヤモヤしていると、アストライアから魔力が流れてくる感覚がした。

 目を瞑っているのに何故か……私の姿が見える。これは……アストライアの視点?


 兵士が鉄の籠を持ってくると、その中には……メルクスが私を見て火を吹いている。

 龍ってメルクスのことなんだ。


「すげぇ、火龍じゃん……本でしか見たことないよ」


「ミロス、火龍ってなに?」


「龍っていうのはこの世界で数十匹しかいないんだって。で、龍は体内に途轍もない魔力が詰まってるんだけど、火龍は龍の中でもその魔力を魔法に変えられる唯一の龍」


「へぇ……そんなに凄い生き物なんだね」


 兎に角、メルクスが無事で一安心。

 籠から出されたメルクスは一目散に私のもとへやってきて、ぺろぺろと頬を舐め回してくれた。


「ふふっ、くすぐったいよ。おかえり、メルクス」


【……ここではあまり馴れ合うな。外に出てからにしろ】


 お辞儀をし、王様の間からそそくさと退出する。ガルドは用があるらしく、宿で待ち合わせることにした。

 明け方の露店街。人の活気と流れは相変わらず賑わっている。


【……つけられてるな。フィオル、転ぶふりをしろ。盲目の真似だ】


「物真似なら得意だよ? きゃー!! 私目が見えないから石に躓いて転んじゃったー!!!」


【酷すぎる…………ミロス、そのままフィオルを引き摺って人混みに紛れろ】


「さっきから何だよ? まるでフィオルが…………王族だってバレちゃいけない理由があるの? フィオル、行くよ」


 ミロスは勢いよく私を引き摺り、人の流れの中に紛れる。立ち上がっても尚、ミロスは私の手を離さず……その後ろ姿に胸の奥が少し疼いている。

 

「ここまでくれば大丈夫かな? ちょっとだけ休ませて……」


 壁にもたれ掛かるミロスの手足は小刻みに震えている。剣闘戦で魔力を使い命の前借りをしたから……身体が言うことを聞かないんだ。  

 

 ミロスの手を下へ引っ張って、壁伝いに地べたへ座り合う。ミロスの顔が赤いのも、剣闘戦の影響なのかな……

 

「ふふっ、メルクスくすぐったいよ」


「ギャギャッ♪」


 私の服の中へ入り込み戯れるように楽しむメルクス。暫くすると、服の首元から顔だけを出したまま寝てしまった。母親みたいになれてるのかな?だとしたら嬉しいな。

 そんな私達をミロスが少しだけ羨む顔で見てきた。もしかしてミロスも……


「ふふっ、ミロスも私の服の中入る?」


「なっ!!!? い、いやだってそんな……」


「じゃあせめてほら、くっついていようよ」


「…………うん」


 私の肩に頭を擦り寄せるミロス。

 いつの間にか隣からは可愛らしい寝息が聞こえていて……いつの間にか、私も夢の中へ誘われていた。


 ◇  ◇  ◇  ◇


「何故このような所で寝ておるのだ?」


【知らん。寝かせといてやれ】

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