第15話 今は言えない魔法


【で、何か考えが?】


「まぁ見ててよ」


 ◇  ◇  ◇  ◇


 ゆらゆらとしながら球体に近づくミロス。

 あの球体は魔力を感知して動いているってガルドが言っていたけれど……何故かミロスには見向きもせずに、他の剣士を………喰らっている。


「ねぇガルド、どうしてミロスは襲われてないの?」


「あれは己で魔力を遮断しているのだ。まだ魔力が上手く扱えぬ幼子ならば時折ああして魔力が遮断されてしまう事があるが……自発的に出来る者がおるとは…………」


 球体の背後まで来たミロス達。

 振り抜いた剣は球体に当たり……甲高い音と共に、剣は弾かれていた。


 ◇  ◇  ◇  ◇


「やっぱり魔力無しじゃ無理かぁ」


【当たり前だろうバカめ。そんなくだらん流儀どこで習ったんだ】


「私、大雑把な性格だけど一回やったことは忘れないし細かいこと得意なんだ。赤ちゃんの時にやってたことを思い出して、こうやってよく魔力閉じて遊んでた……っていうかお前魔力詰まってるのになんで感知されてないの?」


【キサマが先程つけた唇にフィオルの魔力が込められている。無意識だろうがかなりの量だ。癪だが擬似的にキサマとメギスになっている…………何を笑ってる?】


「ふふっ、いいでしょ何だって。さて、私達があの球体に勝つには……アイツよりも速い動きで魔力を込めた剣でぶった斬ること……でしょ?」


【それが出来れば苦労…………キサマまさか……】


「私に全ての魔力を込めて。三回足踏みするから……その後お願い」


【……仕方無い。やってみせろ、ミロス】


「…………ふふっ、行くよアストライア!!」


 ◇  ◇  ◇  ◇


 ミロスが足踏みを始めると……ミロスの身体が虹色に輝き始めた。当然あの球体はそれに気が付き物凄い速度でミロス目掛け突進している。

 

「ガ、ガルド……あれって私の魔力だよね?」


 ガルドが答える前に、ミロスと球体は目で追えない程の速さで攻防を繰り返している。

 あの球体に触れれば、まるで大きな風に巻き込まれたかのように引きずり込まれ食べられてしまう。

 既の間合い。躱して剣を振るうミロスだけど、後一歩距離が足りずにいる。

  

「……人は一生の中で出来る鼓動の回数が決まっている。人らしく生きていく為に身体に制限をかけ、八十余年程の鼓動数を保っているのだ。しかし……あることをすると、その制限を無視して動くことが出来るのだ」


 胸騒ぎが止まない。

 意味がないのに、涙が視界を滲ませていく。


「魔力を体内に溜め込み暴発させ、身体の制限を無くす禁術。当然死期は早まり……並の者ならば十秒も動けば先に筋肉に限界が来る。意地だけでは済まないミロスを衝き動かす……想いの力で彼女は闘っているのだ。分かるだろう? フィオル、お主の為だ」


 ミロスと触れた唇が熱く疼いている。

 心配で仕方が無いのに……目が離せない。

 ミロスなら……絶対に戻ってきてくれるって、安心してしまっている。


「魔力が尽きそうだ。次の一撃が最後だろう」


「ミロス!! 頑張って!!!」


 私の声が場内に響くと……ミロスは剣を高く上げ、そのまま地面へと突き刺した。

 魔力が爆発し、地面は抉られ穴が出来る。

 空に飛んだ球体には……ミロスが投げた剣が突き刺さり、虹色と淀んだ黒い色が混ざり合いながら爆発した。


「いかん!! 魔法壁を張れる程の魔力はミロスには── 」


 唇が、何度も疼いていた。

 何故かミロスと繋がっている感覚がずっとしてて……粉塵が止み……その理由が知りたくて、ミロス達の元へ走った。


【……身を隠す為にわざと地面に穴を空けたのか】


「フィオルが唇にくれた最後の魔力……一面くらいなら魔法壁張れるかなって思ってさ」


「ミロスー!!! アストライアー!!! 大丈夫っ!!!?」


「勝ったよ、フィオ……痛っ!!!? か、身体が動かないや…………フィ、フィオル?」


 こうしなくちゃいけない気がして……こうしたくて、強く強くミロスを抱きしめた。

 意味は分からないけど……ミロスと同じように、唇同士を付けあった。


「あのね……ミロスと唇が触れてからなんだか身体がおかしいの。胸の奥が熱くて、鼓動が強く感じて……それに……唇がむずむず疼いちゃう。変だよね…………」


「……変じゃないよ。だって私がフィオルにかけた魔法だもの」


「そ、そうなの!? どんな魔法?」


「いつか気が付いてくれると嬉しい魔法。ふふっ、あー疲れた疲れた」


 どよめく場内に響く勝利者の名。

 私の名前が告げられると、ミロスは笑いながら拳を空に突き上げた。

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