第21話 番号持ち


 番号持ち……つまり昨日の剣闘戦で強力な魔法壁を張っていたのもこの人……

 番号持ちは私を除いて七人。それぞれ魔力の性質が違うから一概には言えないけど、一番から七番……数が少なくなるにつれて人の道から外れてく……ってガルドが言っていた。


「フィオル様、この線から出ないようお願いします」


 私を囲むように指で地面に線を書かれ……あの小さい丸はミロスの分なのかな……?


「少々手荒になりますが、必ずお守りします」

「ねぇ、私の円小さくない?」

「嫌ならフィオル様の横にいな。その身体、禁術使ったでしょ? その心意気は嫌いじゃない」


「あ、あの……あなたの名前は?」

「リンです。フィオル様が生まれる前から……王都リジェレフで仕えていました。お話はまた後で──」


 私の方を見ていたリンさん目掛け魔力の気配が勢いよく近付き、それは強烈な爆発を引き起こした。

 爆煙が収まると……リンさんは指先一つでそれを防いでいた。


「不意打ちなんて姑息だなぁ、元三番」


「馬鹿め、囮だ」


 煙に紛れ十を超える兵士が私達に襲いかかって来た。ミロスが剣を構える……その前に、私達の目の前で兵士達は倒れ、纏う鎧は粉々に崩れていた。


「あの人……凄い。動きが目で追えなかった。多分同じ禁術を使ってるのに、私よりも……段違いに速すぎる」


「……成る程、一時的に肉体の限界を超えているのか。しかし長くは保たないだろう?」


 倒れた筈の兵士達はまるで糸に繋がれたように不気味な動きで立ち上がり、再度襲いかかって来た。

 瞬きするその隙間から微かに見えたリンさんの姿。

 瞬きを終えた瞬間には鈍い音と共に兵士達は壁の向こうへ飛ばされていた。

 武器も持たずに……素手で戦っている?


「自分の物差しで測る奴ってのは弱者の印だよ、元三番。一つ教えてやる。私に制限なんて無いし……私はアンタよりも強い。死ぬ気で来いよ、弱者」


「……殺す──」


「リンさん、凄く煽り散らしてるね……」

「ガルドに教えてもらったんだけど、魔道士ってなかなか成れる訳じゃないから選民意識が強いんだって。力や地位が高くなればなる程、自尊心も高くなるみたい。だからああして口撃して心を乱し隙をつくのが有効なんだって」

「…………それにしても……凄い語彙だね……」


「雑魚が一丁前の魔力持ってイキってんじゃないよ。ざぁこざぁこ♪」


 狭い街中での戦い、強大な魔法が使えないことを分かっていてリンさんは煽っている(多分)。

 魔道士の戦い方は二つ。魔力を飛ばしてそのまま攻撃するか、魔力を魔法に変えて攻撃するか。

 威力、範囲共に後者の方が強力だけど、唱えるのに時間がかかるらしい。私のように単純思考だと言葉と頭の中、そして魔力が直結し『爆ぜろ』や『燃えろ』と唱えるだけで爆発したり燃えたりするみたい。アストライア曰く【馬鹿の功名】。


 前者、魔力を飛ばし戦う番号持ち。触れれば身体が弾け飛ぶ程の魔力な筈なのに、リンさんは素手で殴り返し戦っている。器用に全て上空に弾き飛ばし、街を守りながら……

 

「勅令であれば直ぐ終わるのだが……全く、バーエン様はもっと疑い深くあるべきだ」


 私達目掛けひっきりなしに飛んでくる魔力を薙ぎ払うリンさん。そのせいで防戦一方。

 私が足枷になってるんだ……私が…………


「そうだよ! 私が魔法であの番号持ちをやっつければいいんだ!」

「でもフィオル……その……多分だけど……それやっちゃうとあの魔道士死んじゃうと思うんだよね」

「そ、それは……そうかも……」

   

 そもそもあの人は何を狙っているのだろうか……

 もし私だとして……昨日アストライアは私の素性を隠していた訳だし……

 よし。直接聞いてみよう。


「あのー……そちらの魔道士さんは一体何の目的でこんなことをしてるんですか……ね?」


 バチバチと火花を散らす合間を縫って、二人の間に立った。


「……貴様、よくこの魔撃を躱せたな」


「ぐ、偶然です偶然。それでその……何用でこんなことをしてるんですか?」

「フィオルさ────」


 私の意図を汲んでくれたミロスがリンさんの口を抑え込んでいる。


「……手間が省けて丁度いい。潔白の術を使う、嘘を付いても無駄だ。貴様、シュミット・ユイスンの娘だな?」


 潔白の術……よく分からないけど嘘と本当を見抜くのかな……

 シュミット……誰だろう……


「違いますけど……?」


「…………反応しないだと……? ではこれでどうだ。リリ・ユイスンの娘だろう?」


 リリ……皆んなが言ってる王妃様の名前……


「…………違いますよ?」 


 私の親は爺ちゃんと婆ちゃんだから、それは誰に何を言われても変えられない……私に残された掛け替えのないモノ。


「…………これもだと? では何故守護者が貴様に帯同している!!?」


「近所の森で出会って……爺ちゃんの遺言で都に行かないとで、連れて行ってくれるってことになりました」


「………………人違いだったか……失礼した……いや、まだ一つあったな。何故あの悪童と共にいた?」


「あの人に財布を盗まれて追いかけてました」


「…………………………そうか。おい悪童、とっとと財布を返して失せろ。因みに私は力の三割も出していない。本来なら貴様など相手にならないことを忘れるな──」


 瞬きをする間に目の前から消える番号持ち。

 吐き捨てられた自尊心に大笑いをするミロスとリンさん。兎にも角にも……みんな無事で良かった……


「アイツ……一体何をしに来たんだ? フィオルを攫いに来たんだよね?」

「……多分。でも話が通じる人で良かったね」

「ふふっ。いや……フィオルの勝ちなんじゃないかな? あーあ、なんか拍子抜けでお腹減っちゃった」


「よーし、ではこのリンがグランを案内しよう。フィオル様、何かあると困りますから私とお手をお繋ぎください。おい僕ちゃん、とっとと歩きな」

「わ、私は女だ!! フィオルから手を離せ!!」

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