第13話 覚悟


「キャー!!?」


【馬鹿か!!? そっちに行くな!! 死にたいのか!!?】


「えーん……やっぱり無理だよぉ……大体剣も持ってないのに……」


 剣闘戦、その予選は大人数の剣士達が一斉に闘技場で闘うものらしい。

 鐘が鳴り終わるまで続くって言ってたけど……


【剣などその辺に転がってるだろう。さぁ拾え!】


「うぅぅ…………そうだ! 死んだふりをしよう!!」


【情けない……それでいいのか?】


「いいんです! それと私は死体だから話しかけないで」


 寝転ぶこと数十分間……


 “ゴーン  ゴーン  ゴーン”


『予選止めっ!! 十数える間に立っていた者のみが勝者である!!』


 静まり返る場内。

 隅の方でコッソリと起き上がる私。

 うん、完璧だね。


【我は観衆の白い目に耐えきれん……】


 

 ◇  ◇  ◇  ◇



「フィオルー!!」


「ミロス! 見た? 私予選通過したんだよ」


 本戦までは一時間程。

 待合室にミロスとガルドがやってきた。


「詳しく訳を聞かせてもらえるか?」


 ◇  ◇  ◇  ◇


「ふむ……そんな理由だったのか……」


「だからなんとしても優勝してメルクスを自由にしてあげないといけないの。本戦は残った八人で共通の何かを倒すみたいで、先に倒した人が勝ちなんだって。だから── 」


 私が言い終わる前に私の口を手で塞ぐミロス。

 その手は温かくて少しだけ震えていた気がした。  


「私が代わりに出る。文句は言わせないから」


「ミ、ミロス? どうしてミロスが……」


「危険過ぎるよ。フィオルがいなくなったら私はもう生きていける自信がない」


「そ、そんなこと……」


 私の手を優しく握って、温かく微笑んでくれる。

 どうしたらいいのか分からなくて、只々握り返す私。


「ううん、そんなことあるんだ。フィオルは私にとって掛け替えのない存在だから。アストライアは私が背負って出る。ガルド、そのデカい鞄に予備のローブ入ってたよね」


【一人で行って一人で死んでこ……触るな! 離せ!!】


「煩いな。私だって嫌だけどこうしないとフィオルに変装出来ないだろ? じゃあフィオル、ガルド、行ってくるね」


「うむ。最悪の場合は試合を止めてでも私が助けよう」


 どうしよう。

 私のためにミロスが……私は……

 頑張ってくれる人を送り出すのに、泣いてしまう。だって……


「……私もミロスのことが大切なの。無事に帰ってきて。一緒に湯浴みする……約束でしょ?」


 一瞬ミロスの目が見開いて……そのまま私に近づき、唇同士が触れ合った。

 それがどんな意味なのかは分からなかったけど、胸が痛くなるほど鼓動が強く速くなっていた。


「……大丈夫だよ。見てて? フィオルの大切なもの全部、私が守るから」


 その笑顔に、触れた唇が温かく疼いている。

 間もなくして、本戦の鐘が鳴った。


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