第19話 路地裏の小休止
入り組む路地。私には似たような景色にしか見えないけれど、ミロスには違った何かが見えているみたい。
少し立ち止まるミロス。肩で息をしているのを……抑えている?
「ミロス……大丈夫? 顔色悪いよ?」
「大丈夫……ちょっとだけ待ってて…………」
グランに来るまでに擦り減らした心と身体。昨夜の激しい剣闘戦、命の前借り。
私……何やってるんだろう…………
「ちょ、ちょっとフィオル……なんで泣いてるの?」
「私ね……もし魔法が使えたら、って毎日毎日考えてたの。色々なことがしたかったけど、一番は……誰かの為に魔法を使いたかった。それが私の為だから。でも実際は……ふふっ、笑っちゃうくらい……泣けちゃうくらい、誰かに迷惑ばかりかけちゃってる。ミロスもガルドも優しいから私を守って肯定してくれるけど……アストライアがいつも私に言ってくる言葉が本当なんだと思う。せめてこの力が悪いことに使われないよう細々と人目のつかない場所に居たほうがいいんだと……思う」
大きく深呼吸したミロスは、優しく力強く私を抱きしめてくれた。背中を擦るその温もりに、涙が止まらない。
「いいよ、それでも。フィオルがしたいようにしようよ。私は離れないから」
「ミロス……」
「小さな家建ててさ、隣に畑を作って……そうだなぁ、川の近くがいいね。畑のカカシ代わりにアストライアを地面にぶっ刺してさ、魔物除けにして……私とフィオルとメルクスと……たまにガルド呼んでさ、ゆっくり暮らそうよ。死ぬまで傍にいるから」
ミロスが言えば……なんでもそうなってしまう、出来てしまうって思える。絵空事でも……ミロスは必ず私にそんな景色を見させてくれる気がする。
私の方こそ……ミロスと死ぬまで傍にいたい。
「……ふふっ。アストライアの罵声が毎日響いてそうだね」
「…………その前にさ、私とガルドで都に行ってくるよ。フィオルの爺さんの遺言……アミリアって人を探してくる。全部終わったら戻ってくるから」
そう言って私から離れようとするミロス。
今この手を離せば、言った通りミロスは都に行き私の下へ戻ってきてくれるんだと思う。
それが一番……誰も傷付けない。
でも……なんでだろう。身体と心が言う事を聞いてくれない。
「フィオル……?」
「……死ぬまで傍にいてくれるんでしょ?」
「…………もー、そんなこと言われたら連れてくしかないじゃん。……辛くなったらこうして言葉にしてよ。聞くし受け止めるし……一緒に答えを探したいから」
「うん……ありがとう、ミロス」
グランの街で時折観た景色。
それは隣にいる……大切な人の手の甲に唇を触れさせていた。どんな魔法なのか……する方もされる方も、幸せな顔をしていた。
真似をして優しくミロスの手の甲に唇を触れさせると…………
「ぴゃっ!!!?」
なんて、可愛らしい甲高い声を出してミロスは飛び跳ねていた。
意味は分からないけれど……素敵な魔法を、一つ知った。
「ふふっ。じゃあお財布探し、頑張ろう♪」
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