第18話 匂いも
「これ……ガルドだよね……?」
「多分……
私の魔法で粉々に吹き飛んだガルド。
守護者は決して死ぬことはないと言っていた通り、少しずつ身体は再生されている。
直視できない程この断面は気持ち悪い。ごめんね、ガルド……
【うねりながら挽肉状の「止めてっ!! ガルドには本当に申し訳ないけど吐いちゃいそうだからそれ以上言わないで!!」
ミロスが木の枝でガルド(らしきもの)を突いて遊んでいると、微かに声が聞こえてきた。
何となく上下に動いているので、これは嘴で間違いないのだろう。
「フィオル、ミロス、そこにいるのか?」
「すげー……これどうなってるんだろう……」
「い、いるよ!! ごめんねガルド……私のせいで……二回目だし……」
「気にするな、迂闊に覗いた私が悪い。私は目が見えぬ、故にお主達の裸体は見ていないから安心しなさい。この身体が回復するまで三日はかかるだろう。せっかくだ、暫くグランの街を探索してくるといい。貨幣は私の鞄の中に入っている。フィオル、ミロスが散財しないよう目を光らせておいてくれ」
ガルドの言葉通り、街へ繰り出したミロスは凄かった。
片っ端から興味のあるものを買おうとしていたので思わず笑ってしまった。
昨日このグランの露店街で私と逸れている間、ガルドも同じような景色を見たのかな。
「ミロス、本当に欲しいものを買おうね」
「ご、ごめん。私の村じゃ貨幣なんて殆ど流通してなくて……なんかさ、見るもの全てが新鮮っていうか……」
「ふふっ、私も同じだよ。でもこの紙と硬貨はガルドの物だから大切に使おう? ね、あっちの方見てみようよ」
少しバツが悪そうに俯いたミロス。アストライアもメルクスも宿にいて、今日は私達二人だけだから……せっかくならこの瞬間を楽しみたいし、ミロスにも楽しんでもらいたい。
傷だらけの優しい手を私から引っ張って、華やかな街へ小走りで向かった。
「わぁ……良い匂いだね……ミロス、なにか食べよっか」
「…………」
「ミロス?」
「えっ? あ、あぁ……そうだね、なんだっけ?」
「ふふっ、疲れちゃった? 何か食べよっか?」
「何にしよっかなぁ……」
その後もミロスはどこか上の空。
私と一緒にいても楽しくないのかな……なんて思ったりして、繋いだ手を離そうとしたけれど、私が手を緩めるとミロスは強く握り離そうとしなかった。
「ミロス……?」
「……ごめん。本当はもっと
ミロスは俯きながら顔を赤くし、私の手を自分の胸へ優しく置いた。
大きく速い鼓動が私の手を揺らしている。
「……凄いことになってるでしょ? ゆ、湯浴みの時に言おうと思ってたんだけど……私、その……フィオルのことが……」
震える唇、耳まで赤いミロスを見ていると、私もなんだか顔が熱を帯びていく感覚がした。
「わ、私…………フィオル伏せて!!」
「えっ……きゃっ!!?」
咄嗟の出来事。
小石のような物が飛んできて、ミロスは自分ごと私の身体を地面に伏せた。
その衝撃と共に、私の腰に巻き付けた財布を何者かが奪っていった。
「あのクソガキ……フィオル、追いかけるよ!」
「う、うん!」
ミロスの言葉通りなら犯人は子供……
あの瞬間に誰か確認出来るなんて、ミロスは凄いな……
ひっきりなしに往来する人々、迷路のように枝分かれしていく路地。
あっという間に見逃してしまった。
「舐めんなよ……フィオルの匂い辿れば余裕だし」
「そ、そうなの? 私そんなに匂うかなぁ……」
「…………私、フィオルの匂いも好きだよ。よし、こっち!!」
先程とは反対に私の手を引くミロス。
理由は分からなかったけど、いつも通りの明るいミロスに戻っていた。風を切り駆け抜ける街々。
ふわりと乗せられてきたミロスの匂いに、何故か胸の奥が疼いた。
「ふふっ、私もミロスの匂い好きだよ」
「…………うん」
相変わらず耳が赤くなるミロスだけど……一瞬空を見上げて、どこか嬉しそうな顔でミロスは微笑んでいた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます