第11話 守ってくれる存在
「もっと視野を広げるんだ。死角を作っては話にならないぞ」
「いやいや、ガルドの動きが速すぎて……」
ミロスは剣技の訓練中。
二人共本物の剣を使っている為、怖くて見ていられない。
「……ねぇアストライア、どうして人は剣を使うのかな? もし魔物に襲われたら、遠くから魔法を使えばいいんじゃないの?」
【魔物とは高純度な魔力が素だ。並の人間ではかすり傷一つ与えられないだろう。キサマの様に馬鹿げた魔力なら問題無いが。魔力を注いで作った剣、そして刃に纏う己の魔力で補い闘うのがキサマ等人間の闘い方だ。故に術者と杖の様に、剣士と剣の関係性というものは非常に…………何を笑っている?】
「……アストライアがそんなにお喋りな時もないよね。ふふっ、嬉しいな♪」
そう言った瞬間、アストライアから禍々しい魔力が溢れ出し周囲の森を破壊し始めた。
止めようにも止められない。
「キャー!!? ごめんなさいごめんなさい!!! アストライア許してー!!!」
◇ ◇ ◇
アストライアのせいで半壊した森。
逃げ遅れた動物もいっぱいで、涙が止まらない。
「っ……ぅっ……ひどいよ……アストライア……」
【元はと言えばキサマが……何の真似だ、クソガキ】
刃先をアストライアに突きつけ睨むミロス。
それは、初めて出会った時の様な顔で……
「それ以上フィオルを悲しませるなら、私はお前を許さない」
【何を言うかと思えば……コイツは我がいなければろくに魔法を使う事も出来ぬのだぞ? 誰がコイツを守るんだ?】
険悪な雰囲気が漂うこの森に、ズシンという音が奥から近づいてくる。
地響きは徐々に大きくなり、やがて正体を現す。
私の村を襲ったヤツによく似てる魔物。
大人二人分程もある高さ、巨大な丸太の様な胴体に手足。
鋭い爪、ギラつく三つの目玉。
その魔物は、私目掛けのそのそと距離を詰めてくる。
「ガルドの剣貸してよ。私がやる」
「……よかろう」
ガルドの背負っている剣は、丁度私と同じ位の幅と長さがある。
巨大な剣を、ガルドはいつも小枝のように扱っていた。
そんな剣をミロスはふらつきながらもなんとか持ち上げた。
【やめろやめろ。格好つけて死ぬだけだぞ】
「……二つ言ってやる。フィオルを舐めるなよ。お前なんかいなくてもフィオルは立派な魔術士になる。それから……」
ミロスの足元が輝き始めると、そこから地鳴りのような音が出ている。
剣を水平に構え一息つくと、ミロスから突風が吹き出した。
身体が飛ばされそうになって、思わず目を瞑る。
風が落ち着き目を開けると、真っ二つに切れた魔物が横たわって……
巨大な剣を地面に突き刺して、ミロスは私を見つめてくれた。
「私がフィオルを守る。自惚れんなよ、クソ杖」
その言葉に、その姿に鼓動が速くなる。
私どうしちゃったのかな……
「……魔力を極限まで圧縮、その中に風魔法を予め仕込んでおき、敢えて魔力を暴発。私の大剣の長さを利用し、吹き飛ばされた自身ごと魔物に突撃し切り倒す。うむ、少々手荒だが素晴らしい判断と行動力だ」
「それにしても、この剣重たすぎ」
「では次の街で自身に合うモノを選ぶと良いだろう。その森を抜ければこの地区最大の街、グランが姿を見せるぞ」
日も暮れて、真っ暗な筈の森が薄っすらと何かに照らされている。
森を抜けると、そこには夜空を照らすほど巨大で明るい街“グラン”が遠くから私達を出迎えていた。
でも、この距離で魔物がいるのは何故だろう。
私の村、デーテ、この森……もしかしてミロスの村も…………
嫌な考えが、頭の中を巡る。
ミロスはそんな私の手を握り、優しく微笑んでくれた。
「いやー、久しぶりの湯浴みとふかふかの布団、楽しみだよね」
「ふふっ、そうだね。今日は……一緒に寝てくれる?」
「も、勿論! よーし、走るよフィオル」
さっきから、アストライアが何かを喋ろうとして、やっぱり辞めてを繰り返している。
単語はずっと同じ。
私にしか聞こえない……メギスでの声。
“わ”という言葉を、感覚を開けて繰り返す。
素直じゃないとこも含めて、アストライアだから……
私も、アストライアにしか聞こえない声で喋る。
“いつも私の事を守ってくてありがとう”
“………………悪かった”
アストライアを強く握りしめると、同じように、握り返されている気がした。
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