広域組対 捜査官 猿渡喜龍 (1)

「あんた……仕事で何かマズい事やったの?」

 子供を連れて家を出てったカミさんから、3ヶ月ぶりにかかって来た電話がそれだった。

『え……?』

「捜査対象のヤクザに自分の身元がバレるとか……」

 いや……既にバレまくってるが……それを言ってしまうと……カミさんと子供は「身の安全の為」と云う抗弁不能な理由で、俺との連絡を断ち……例えば携帯電話ケータイの番号やメアドを変え、通信アプリMaeveやSNSでは俺をブロックする……そして、どこか遠くに引っ越すだろう。もちろん、そうなった場合、俺が引越し先を知る事は……「警察官である俺が、他の警察機構カイシャのヤツの御世話になる」ような真似をしでかさない限り……不可能だ。

『ウチの子が、学校の帰りに、デカい体に恐い顔のおじさんから「お父さん、刑事さんなんだって? 久米って人がよろしくと言ってた、って伝えてもらえるかな?」と言われた、って泣いてたんだけど……』

「いつだ……? あと、どっちだ?」

『昨日。そして……言い方が悪かったわね……。正確には「ウチの子」と云うより「子供たち』』

「え……あ……まさか……」

龍星りゅうせい優希ゆきの両方』

 その時、背後うしろから誰かがメモ用紙を渡した。

「ああ……判った……。と……とりあえず、こっちで状況を確認したら、また連絡する」

『1ヶ月経っても進展が無いか……また、同じ事が起きたら……冗談抜きで、あんたは2度と自分の子供に会えなくなると思いな』

 下っ端のヤクザがやった、しょ〜もない犯罪を見逃す代りに金をせびった時には……こんな事になるなんて……思ってもみな……いや……こんな事態になる事を予想すべきだった。

 カミさんとの電話が終って、誰かから渡されたメモ用紙を見ると……。

 ま……マズい……。

 そのメモ用紙には、こう書かれていた。

「例の業務連携の件で、お話を伺いたし。いつものバーで午後9時に。個室を予約してお待ちしております。久米より」

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