安徳セキュリティ社員・重松蓮 (1)

「いや……別れた嫁との離婚の時の協定で……月1回だけ息子を会える日なんですよ」

 副社長は電話でそう話していた。

 相手は社長らしい。

「お前さ……ヤクザのクセに法律守るのかよ?」

 俺をボコボコにして、ここまで案内させた男は、副社長にそう言った。

「守んねえ法律も有るが……俺が世界一恐れる相手との約束は守るしかねえだろ」

 そう答える副社長。

「誰だ、それ?」

「俺の別れた嫁だ」

「お前より強いのか?」

「あのな、何で、そう言う発想になる? 間違っても、ウチの元嫁と息子を襲ったりするなよ」

「で……俺との勝負はいつだ?」

「判った、判った……後で連絡する。おい、重松、そいつに使い捨ての携帯電話ケータイを貸してやれ」

「は……はい……」

「おい……このあんちゃん、何で俺を怖がってんだ?」

「お前が怖がらせるような真似をしたからだろ。おい、この金でしばらく遊んでろ。あ、そうだ。あと、お前が刑務所オリに入ってる間に、すっかり電子マネー全盛になったんでな」

「それがどうした?」

「現金が使えねえ店も有る。飲み食いをするなら、現金が使えるか確認しろ。大概の店では入口に現金が使えるか書いてある筈だ」

「ややこしい世の中になったな……おい、やっぱり、物価も上がってるのか?」

「昼飯代は、お前が刑務所オリにブチ込まれる前の……そうだな、5割増しだと思っとけ」

 そう言って、副社長は、再び自分の携帯電話ケータイを手にして……。

「今度は、どこに連絡だ?」

「あんたを探してるフリをする為だよ……。あ、猿渡さん。どうも、休日にすいませんね。安徳セキュリティの久米です」

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