眞木桜(まき さくら) (1)

「なんなんすか、あいつらは……? 警官のクセに、今時、職場でセクハラ関係の教育受けてないんですか?」

 私は、育ての母親の実の娘だけど、ややこしい家庭の事情で、つい最近まで存在すら知らなかった瀾に、初めて会った翌日に言われたのと似たような事を言っていた。

 他の警察機構カイシャとの打ち合わせの筈なのに、私が言われた事は「いやぁ、美人ですねぇ」「彼氏は居るの?」「結婚してんの?」その他、職場教育の「これやったらセクハラになるんで注意しろ」事例集そのまんまのセリフ。

 ついでに、私が何か意見を言うと……それが自分でも良いアイデアだと思ってる時に限って、私より十以上上の男が続いて、自分の意見のように鸚鵡返しで言って……何故か、他の男が「いやぁ……良いアイデアだ、○○さん」……。なお「○○さん」の「○○」には私じゃない名前が入る。つまり、私の言った事を鸚鵡返しした男の名前。

 少し前にJR久留米駅前で起きた大騒動……それに複数の暴力団が絡んでいる事が判明した……いや、正確に言えば、とっくに知ってたけど、政治的な理由で「ウチの『カイシャ』は最近ようやく知りましたぁ〜♥ てへっ♥」と云うていを装わなければいけなかったのだが……ので県警のマル暴と、対組織暴力犯罪広域警察……通称「広域組対」……との情報交換の打ち合わせの場に行く事になった。

 しかし……まぁ、今時めずらしい位の男社会だと思ってたウチの「カイシャ」が、同業他社警察機構の中では「実力さえ有れば、女も出世できる」所だと良く判った。

「なぁ……何で、民間でセクハラ・パワハラが『遠い昔の神話の時代の話』と化したか判るか?」

「えっ?」

「何で、異能力者の存在が明らかになってから三十年近く……電車内の痴漢が、とんでもない勢いで減ってるか判るか?」

 副隊長の中島なかじまさんが、意図が良く判んない事を言った。

「えっと……そりゃあ……。パワハラ・セクハラ・痴漢をやった相手が、特異能力者だった場合、ただじゃ済まないから……?」

「そ……。俺達は、特異能力者が町中で暴れてたり、堂々と強盗をやったり、あまりに証拠を残し過ぎてるような連続殺人をやった場合は対処出来るけど……例えば『セクハラ上司1人だけ殺した以外は誰も殺してないし、殺す必要もない』ってタイプの特異能力による殺人は……対処は、ほぼ不可能だ……。そもそも、特異能力による殺人だ、って証明不能なケースが大半だ」

「だったら……」

「で……誰が『特異能力者』か判んない、この御時世に、ほぼ確実に『特異能力者じゃない可能性が高い。最悪、何かの特異能力は持ってても、大した能力じゃないか、使うのに制限が有る能力である可能性が高い』と言い切れる奴らが居るだろ」

「へっ? そんなの……居ます……か……って、まさか……」

「そう、だよ。誰かが、使ってのは何を意味してる? 戦闘で使える特異能力が有ったら……特務要員ゾンダー・コマンドに回されてる」

「あっ……」

「だから……レンジャー隊の女性隊員は……他の警察機構カイシャの古臭い男の生き残りからすりゃ……『誰が特異能力者か判んない』ような今の時代で……安心してセクハラ・パワハラが出来る数少ない『女』なんだよ」

「んな……阿呆な……」

「すまん……。俺が迂闊だった……。お前を連れて来るべきじゃなかった……」

 しかし……これは、本当の大騒動の前の予兆に過ぎなかった。

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