久留米レンジャー隊 隊長代理・中島真一 (1)

 あの日、久留米レンジャー隊のメンバーの数が一気に半数以下になった。

 俺と同期「入社」だった隊長レッドの江頭裕と、眞木の同期で狙撃・索敵担当ブラックりゅう一樹と、りゅうの補助をやっていた通常型グリーンの着装者の1人・長野ちょうの浩美ひろみは、乗っていたヘリごと粉微塵になった。

 ヘリに乗っていなかった4人の内、通常型グリーンの池田晴紀はるきは、少年兵を逃げ遅れた子供だと誤認して救助の為に近付いた所を、至近距離からスラッグ弾を撃ち込まれ……肋骨を骨折し入院。

 今、「出社」が可能なのは、副隊長ブルーの俺と、パワー型イエロー着装者の眞木桜、通常型グリーンの最後の1人の大石隆太だ。

 追加要員が来るのは……5月以降で、それも「入社」したての新人ばかりらしい。

 広島県内と山口県内の支部から、即戦力として特務要員ゾンダー・コマンドが計2名「転勤」してきたが……今は、まだ「お客さん」状態だ。

 対異能力犯罪広域警察機構「レコンキスタ」福岡県久留米支部の前線要員は……早い話が、今、5人しか居ない。

 あと、あの日、単に、久留米支部唯一のヘリが失なわれただけでなく、下手な前線要員より遥かに貴重なヘリ操縦のベテランである富松省吾も死んだ。

 あの日のあれを起したヤツ……広島のある暴力団のリーダーである佐伯漣が……何だったのかは、未だに判らない。

 そもそも……あの時、何か変だと気付くべきだった……。ウチのデータベースに「異能力犯罪者/犯罪容疑者・SSS++級」として登録されているのに……肝心の「異能力」や「容疑」「前科」についての情報が何も無かった事を……。

 そもそも、「SSS++級」なんて格付け・分類は「データベースの仕様としては存在する」事は知ってたが……本当に、そんなデータが登録されていると知ったのは……あの日が初めてだ。

 感心出来た話じゃないが……あの日、一時的に違法な「御当地」ヒーローと手を組む事になったのだが……そのリーダー格らしき男は……こう言っていた。

「神に選ばれた者」

「『魔法使いにとっての魔法使い』『超能力者にとっての超能力者』……いや、それでも控えめな喩えだ」

「警察や軍隊や俺達みたいなのが……台風や洪水や地震や火山の噴火に『勝てる』か? あれは、そう云う代物だ。ゴジラみたいな化物が、たまたま、人間の姿をしているだけだと思え」

 そして、たった1人で、4m級の軍用パワーローダーを吹き飛ばし、JR久留米駅周辺に復旧まで数ヶ月かかる傷跡を残し……どうやら、「違法な御当地ヒーロー」達が複数連れて来た「そいつの同類たち」による「説得」の結果、「お引き取りいただく」事に成功した……らしい。

 ともかく、隊長代行になって二〇日ほど経ったが、まだ、隊長がやる筈のデスクワークには慣れていない。

 今日も今日とて、自分で出した予算申請(申請書の作成は副隊長仕事だ)の審査・承認(これは隊長の仕事だ)を自分でやる羽目になり、流石に経理からクレームが来たが、なら、この場合、どうすれば良いかは誰も知らない、と云う無茶苦茶な事態になり、それで午前中一杯の時間が潰れてしまった。

 しかし、この馬鹿げた事態も……来週か再来週には終る。

「お疲れ様です……」

 妹の入学式に保護者として行く為に、半休を取ってた眞木が「出社」して来た。

 その入学式から直接ここに来たらしく、普通の会社員みたいな格好だ。

「あ……メールが来てると思うけど、来週の月曜から金曜まで、研修行けってさ。阿蘇の施設で泊まり掛けだって」

「えっと……何の?」

「副隊長になる為の」

「は……はぁ……。で、給料の交渉は、どうなりました……?」

「階級はそのまま、で基本給が上がるとしても来期からだけど……今月から役職手当が付くってさ。基本給の二五%」

「よっしゃっ♪」

「で、その次の週は、俺が隊長になる為の研修」

「えっ……その間、私が、ここの責任者っすか?」

「そうだ。しっかりやってくれ」

「あ……副隊長、眞木さん、午後からのマル暴との打ち合わせの資料出来ましたんで、目を通しといて下さい」

 その時、レンジャー隊の一番下っ端の大石が、そう声をかけてきた。

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