久留米レンジャー隊 隊長代理・中島真一 (2)

「ご……ごめん……すまん……あやまる……俺が……迂闊……いやマヌケだった……」

 昼休みが終った直後に、副隊長代理の眞木の御機嫌が斜めになった。

 最大の問題は……その原因の一端が俺に有ると云う事だった。

「『ごめんなさい』は、いいっすから……私の質問に答てもらえますか?」

「い……いや……その……だから……」

「ねぇ……何で、他の警察機構カイシャのヤツに、私のメアド教えたんすか?」

 眞木はPCのモニタを見ながら舌打ちをした。

「これで……もし……メールの内容が変なお誘いだったら……」

「た……たのむ……俺の子供から父親を奪わんでくれ……」

「あんた、子供なんか居たのか?」

「いや……その……実は……内縁の妻との間に……」

「本当か?」

「ご……ごめんなさい……。言い訳のネタが尽きて……思わず……」

 昨日の打ち合わせに同席した広域組対の1人……要はa・k・a・セクハラ親父から眞木宛にメールが来た。

 上司である俺には来てない所を見ると……まぁ、どう考えても仕事関係では有るまい。

 当の俺が、昨日、眞木に言った通り、「誰がチート級の特異能力持ちか知れたモンじゃない」この御時世、クズ男が安心してセクハラをかませる相手は……「レンジャー隊」の女性メンバーだ。

「画像ファイルが添付されてますね。ヤツのチ○コの画像とかだったら……中島なかじまさんのチ○コ、切り落としてもいいっすか?」

「おねがい……やめて……」

「えっ? 小便以外で使う機会なんて有るんすか?」

 いや、眞木は確かに特異能力持ちじゃないが……でも……。

「あ……あの……馬鹿……誰に手を出そうとしてるか……判ってんのか?」

 何故か眞木が、俺の言いたい事を代弁してくれた。

「えっ?」

 添付画像は2つ。

 県内有数の進学校の制服を着て自転車に乗ってる眞木の妹その1。

 そして、市内にある女子高の制服を着てる眞木の妹その2。

 俺も、詳細は知らないが……そして、こんな脅迫をしたヤツは、もっと知らないだろうが……この2人は……化物だ……。

『妹さん達の顔と通学路は判ってる。こっちの要求に従ってもらおう。俺に渡して欲しい情報が有る』

 メールには、そう書かれていた。

「あ……あの……あのさ……これ……ひょっとして……誰かに助けを求めた事が判ったら、妹の身に危険が及ぶぞ……ってヤツか?」

「しかし……これ……どう云う事ですかね?」

 眞木の妹を人質にしたつもりのヤツが要求してきた情報は……ウチの「社内報」に、ウチの健康保険組合の会報に……その他、ウチの内部文書だが、どうって事無いモノばかり。

「あぁ……これ……聞いた事ねぇか? 地方紙を1年間チェックし続ければ……その県の県庁の管理職クラスの名前と役職を、8〜9割方、リストアップ出来る、って話を……」

 何故か丸ぼうろを食べながら、背後うしろから眞木のPCの画面を覗き込みつつ、そう声をかけたのは、転勤してきたばかりの特務要員ゾンダー・コマンドの秋光さんだった。

「ええっと……じゃあ……その……」

「そ……。広島の右翼団体の神政会が似たような手を使った事が有った。警察や検察のエラいさんの身元を調べ上げて……警察や検察が言う事を聞かなかったり、気に入らねぇ事をやったりすりゃ……例えばエラいさんの子供が通学中に……」

「殺される?」

「もっと酷い。楽に死ねりゃめっけもんだ……」

「じゃあ……その為の情報を入手する第一段階として……まずは、ウチの誰も重要とは思わない内部文書から、ウチのエラいさんの名前と役職のリストを作るつもり……と」

「何て、御時世だよ……同業他社も信用出来なくなるって……」

「ん?」

「どうした眞木?」

「『通学路は判ってる』って言ってますけど……この写真に写ってんの……私んの近くなんすけど……」

 俺は自分の机に戻る。

 ざっと、昨日から今日にかけて眞木の自宅の近辺で起きた事件が無いか確認すると……何だ、こりゃ?

「おい……お前の妹さんの行ってる学校って……」

「片方がJR久留米駅前のM学園で、もう片方が自宅の近くのS女子高っすけど……」

「今日の午前中に、S女子高の辺りで……」

「嫌な予感しかしない……」

「広域組対の車がエンコしてた……」

「はぁっ?」

「冷却水が残ってたのに、何故かエンジンが焼き切れて……メーカーにクレーム入れてる最中だそうだ……。同じ車種の同じ年式を使ってる所は注意しろ、ってさ……」

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