安徳セキュリティ社長・行徳清秀

 ややこしい関係ってのは有る。

 血縁上は「伯父」。

 ヤクザとしては「親」。

 表向きは「俺が社長をやってる会社の親会社の会長」。

 総合評価は「仲が最悪なのに喧嘩する訳にはいかない親類」。

「これやらかしたの……お前のとこの『副社長』の『お友達』らしいぞ」

 俺の祖父じいさんは……あまりにトチ狂った動機で、何人もの女との間に、これまた何人もの子供を作った。

 なお、その「女」の大半は、誘拐か……金で「買った」相手。なお、「買った」ってのは単なる買春じゃなくて人身売買の意味だ。

 そして、作った子供の大半が異能力持ち。……いや、「作った」ってのは、慣用句でも比喩的な意味でもなくて俺の祖父じいさんは自分の血を引く異能力持ちの子供を生み出す実験をしていたのだ。

 そうして生まれた娘の1人を、更に別の異能力持ちと交配かけあわせた結果、生まれたのが俺だ。

 なお、異能力者の存在が一般に知れ渡った時期より、祖父じいさんが「自分の血を引く異能力持ちの子供」をガンガンこさえてた時期が何十年も早い理由は……簡単だ。俺の祖父じいさんの一族は、「妖怪」系の異能力者の家系だったのだ。

 そして、同じ会議室に居る「伯父貴」にして「親分」は、その狂った祖父じいさんの数少ない正妻との間の子供だ。

 あ、正妻ってのは「政略結婚した同業者の娘(なお、おそらくは何の異能力も持ってない)」って意味だが、祖父じいさんの正妻の父親は、とっくに死んでいて佐賀の背振あたりの山ん中に埋まってるが、そこには墓石も卒塔婆もなく、そもそも火葬さえされてないし死亡届けも有耶無耶なままだ。ついでに、祖父じいさんの正妻の父親の「組」は、今や、俺の会社の「親会社」の「子会社」の1つだ。

 で、プロジェクターで映し出されてるのは、大怪我をしたウチのグループ会社の「正社員」達の写真。

「で……こいつらは生きてんですか?」

「入院中だが、一応は。だが、退院出来ても、真っ先に市役所の福祉課の障害者向け窓口に今後の相談に行く必要が有るだろうがな」

「意識は?」

「これも、一応は有る」

「で、何て言ってるんですか?」

「だから……ウチの下っ端らしい奴を手当たり次第襲って、お前んとこの副社長の居場所を訊いてるそうだ」

「えっ?」

「この前、長崎刑務所から脱走した奴が犯人らしい。とっとと、あの『犬』にカタを付けさせろ」

「何者なんですか、そいつは?」

「普通の人間です」

 そう言ったのは、プロジェクターに繋っているモバイルPCを操作している……一見、かなりお堅い職種の会社員か公務員に見える、痩せぎすの体に、一見ダサいデザインだが、良く見ると最高級の鼈甲で出来た伊達眼鏡をかけた三十代後半の男。

 親会社の副社長と言うべきか、上部団体の若頭と言うべきか迷うが……要は「伯父貴」にして「親分」の懐刀の酒村孝太郎だった。

「え……えっと……『普通の人間』?」

「ええ、そっち関係の学者センセイも『異能力者』と見做すべきか『単に異常に強い普通の人間』と見做すべきか迷ってる奴だそうですが……若い頃には……そちらの副社長さんと何度も喧嘩して、そのたびに痛み分けで終ってるそうです」

 酒村がそう言うと、二十後半ぐらいのガタイのいい男の写真がプロジェクターに映る。

「二十年前の写真ですが……どうやら、今の外見も、三十前半にしか見えないそうです」

「な……なるほど……」

「あ……若い頃には……そちらの副社長の久米さんと互角だったと言いましたが……」

「何ですか?」

の久米さんと素手 対 素手で互角だった、って意味です」

 えっと……「普通の人間」の定義や範囲って……一体全体、何なんだ?

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