第3話 お兄ちゃんは妹を守りたい
「つまり、ユウカは俺が倒れたという
「お兄ちゃんのせいじゃないよ。私がちょっと慌て過ぎただけだよ?」
ユウカ将軍は俺の実の妹・
何という奇跡のような再会だろうか。
そりゃ、どっかで見覚えのある顔をした美少女な訳だよ。
毎日のように見ていた顔を忘れるはずがない。
ユウカによると俺は自室で倒れているところを発見されたそうだ。
その時点ではまだ、死んでなかったようで意識不明の重体として、病院に運び込まれたらしい。
報せを受けたユウカは取るものもとりあえず、病院へと急ぐ途中、交通事故に巻き込まれてしまった。
本人は『あーもすーもなかったよ。即死だったんじゃないかな』とあっけらかんとして、言っている。
恐らくは強がっているだけだろう。
あれは強がるところがあるが、本当は怖がりだからな。
ユウカから、聞いた話をまとめてみよう。
ユウカがこの不思議な世界で自分が、前世を持つということに気付いたのは俺がフレデリクとして、目覚めるよりもだいぶ前のことらしい。
不思議な声に導かれ、転生したこと。
自分が
全てを思い出したのは十年も前か。
そして、ユウカと同じと考えれば、俺も死んでいるとみて、よさそうだな……。
この世界で目覚めて、唯一心残りだったのは妹のことだった。
俺と妹には他に家族がいない。
高校生の頃だった。
結婚二十年を祝う夫婦水入らずの旅に出た両親が事故に巻き込まれて、帰らぬ人になったからだ。
朝、見送った時にあんなに元気だった両親が物言わぬ体になって、帰ってきたのはショックだったが、感傷に浸ったり、悲しみに耽る暇なんてなかった。
俺が落ち込んだら、ユウカが立ち直れなくなる。
そんなことになったら、あの世で父さんと母さんに合わせる顔がない。
頼れる者がいないんだ。
俺が頑張って、妹を守らなければいけないのに一人だけ、異世界転生なんて最悪じゃないか。
だから、今はちょっとだけ、ほっとしている自分がいるのだ。
「それでお兄ちゃん、どうするの? この世界、お兄ちゃんがやってたゲームに良く似てるみたいなんだよね。でも、良く分からなくって……」
「お前は絶対に守る。死なせたりしないさ。俺に任せておけ」
「えっと、その言い方って。もしかして、私、死んじゃう設定なの?」
俺は無言で頷く。
一回、死んでいるからなのか、ユウカは既に諦めきった顔をしている。
そんな顔のユウカを見るのは二度目だ。
一度目は両親の葬儀の時だった。
もう、二度とそんな顔をさせるものかと心の中で強く誓う。
「このまま、お前だけが砦に出陣するとユーリウスって奴に殺される。だから、ユウカ……お前はユーリウスと戦ってはいけない。そいつは兄ちゃんに任せろ。俺が絶対に何とか、する! なんてったって、今の俺はこの世界最強の鬼神だからな! どーんと任せておけって」
「お兄ちゃん……」
泣くのもやめて欲しい。
妹にガン泣きされて、心が正常でいられる兄がいるだろうか?
いや、いない! というか、俺には無理だ。
「それで物は相談なんだが……俺達がこの世界で生きていくにはもうひと手間が必要なんだ。腕利きの弓兵を千ほど、融通が出来ないか? 無理なら、五百でもいいんだが」
「うーん、難しい注文だね。何とか、やってみるよ。出陣までに揃えればいいの?」
「それで十分だ」
それから、この後に起こる砦防衛という大きなイベントについて、打ち合わせを済ませ、ユウカを下がらせた。
今日、分かったことを頭の中でまとめることにした。
まず、この世界は俺が好きだったシミュレーションゲームの世界で間違いないだろう。
そして、俺は何かの発作なのか、梗塞なのか、分からないが死んでこの世界に来ちゃったってことで間違いないだろう。
それだけならいいんだが、死ぬことが確定しているフレデリクという男として、この世界にいる訳だ。
おまけに同僚で義妹という設定のユウカ将軍が実の妹の夕夏なんだから、驚くほかない。
ユウカも驚いたろうな。
憧れの義兄が実の兄だったんだから、相当ショックだったに違いない。
そこで重要になってくるのが、俺も夕夏も普通の日本人ってことだ。
運動神経が悪い訳ではないがいいってほどでもない。
武術やスポーツが得意かというとそうではない。
そんな俺達で大丈夫かという疑問が浮かぶのだ。
それをユウカに話したら『身体が勝手に動くから、平気だよ』ということらしい。
そういや、夕夏の奴はかなりの運動音痴だったはずだ。
何もないところでよく転んでいたし、走っても歩いているのか、分からないくらい遅かったからなぁ。
『ただ、慣れるまでは大変だったよ。慣れって怖いね……』と遠い目をしているお前が怖いがな!
そう言いたかったのは内緒だ。
つまり、俺は特に意識しなくても最強の鬼神であるフレデリクとして、戦えるんだろう。
だったら、俺は未来を変えられるはずだ。
俺なら、フレデリクをあんな死に方で終わらせたりはしない!
セレナ姫もきっと助けてみせる。
その前にまず、ユウカを軽く助けてみせるさ!
それくらい出来なくて、何が最強の鬼神だ。
俺とユウカは諸侯連合軍に包囲されているシャイデンの砦に総勢五万の軍を率いて、援軍として合流した。
ユウカの副将として、同行しているが特に許可は取っていない。
つまり、俺は直属の部隊を率いることは出来ない訳だが、そこは蛇の道は蛇さ。
融通してもらった虎の子の弓兵隊が千名いるんだが、これをどう使うかはまだ、秘密にしている。
少なくともこの砦の戦いでは必要なさそうだが。
「それにしても圧巻だな」
「凄いね。こんなにたくさんは私も初めてだよ」
俺より一週間早く、この世界で十年を過ごしているユウカでも初めてか。
ものすごい数の人だな。
雲霞の如しと言うがあれは嘘じゃないんだな。
この砦は特殊な構造で平地に構築されている平城ではなく、都への侵入を阻む防壁、いわゆる関と呼ばれるものみたいだ。
だから、取り囲むというよりも眼下に広がる世界一面に連合軍の兵が見えるって訳だが。
ミサイルを撃ち込めば、終わりじゃないかと思うだろう?
そんな先進的な科学兵器はこの世界にない。
代わりに魔法使いがいて、魔法の存在する世界だから、ミサイルみたいなものはあるかもしれない。
まあ、そんな必要ないんだけどな。
この砦での戦い。
ユウカが喧嘩を売って、一騎討ちから始まるんだよな。
何とも前時代的な風習だがこればかりは仕方ないか。
現代人の感覚だと長々と自己紹介している間に撃ち殺したら、よくね? と思えてならないんだが、卑怯なんだろうか。
それを言ったら、一騎討ちなのに加勢ありなのも十分、おかしいな。
一騎じゃないよな。
主人公だから、許されるのか。
色々とおかしいぞ、この世界。
「さてとフラグをブレイクしようかね」
「う、うん? 分からないけど私、頑張るよ」
身の丈ほどある大剣を携えたユウカの頭をポンポンと軽く、叩くと一瞬、驚いたのだろうか。
ビクッと反応したものの頬を桜色に上気させ、上目遣いに俺のことを見つめる……って、おかしくないか?
お前、妹だけど?
いや、今は血繋がってないけど、繋がっていたんだぞ。
ややこしいな、おい!
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