第18話 デートの約束ゲットだぜ
「お前ら、面倒だからさ。結婚しろ」
「馬鹿弟子、ごちゃごちゃ考えてる暇はねえんだ。四の五の言わずに覚悟決めな」
おうふっ。
先生、何を言い出しているんだ!
言いたいことは分かるがそれを今、言っちゃ駄目だろう。
「姫。少々失礼しますがよろしいですか?」
「ひ、ひゃい」
急に結婚だの言うもんだから、セレナ姫は頬を桜色に染めて、恥じらって……かわいすぎるんですが!
姫に見惚れている場合じゃなかった。
俺は先生が余計なことをさらに言い始める前にその口を手でふさぎ、横抱きに抱えて、遁走する。
いわゆる戦術的撤退ってやつだ。
「くぉら! 馬鹿弟子、息が止まるじゃないか。何しやがるんだ」
「先生……空気を読んでください。姫にあの提案は禁句ですよ」
距離を十分にとってから、先生を解放すると途端に怒られる。
でも、あんたが悪いと思うんですよ、俺。
「何がだ? あの姫はゲッツ陛下の叔母だろうが。それがあれば、お前は陛下の義理の叔父として、堂々と天下を狙えるんだぜ? お前が目指す世界を作りやすいじゃねえか」
「いや、先生……それだと俺がまるでそれを目当てで姫に近付いた最低男じゃないですか」
「え? 違うのか? それが狙いかと思っていたが」
分かってない。
先生は分かってない。
セレナ姫は表舞台に立つことを望んでなんていないのだ。
彼女は心優しい人だ。
だから、自分の身を犠牲にして、最期は悲しいことになってしまう。
そうはさせないと決めた。
「先生、俺やあなたのような
「そりゃ……まあ、そうだな。大事の前の小事と済ませられることではないか。あの姫の事情は俺とて、分かってはいる。だが時間は有限ぞ?」
「分かってますよ、先生。だけど姫は巻き込みません。あの人には心安らかに生きてもらいたいんです」
「おめえがそこまで言うなら、仕方ない。ここは譲っておいてやる。せいぜい、頑張ることだ、色男」
「先生には別のことを頼みたいんですよ。北からくるド・バルザックを迎え撃つ軍の編成を頼まれちゃ、くれませんかね?」
「ああ、あれか。お前のとこの手勢、騎兵四千に弓兵千くらいでいけると思うがどうだ?」
「俺も出ますから、それで十分ですよ」
先生はひらひらと片手を軽く振ると静かに去っていった。
嵐が来たみたいに荒らしてくれたけどな。
姫のところに戻ると姫は相変わらず、桜色にほんのりと染まった顔のままで俺を見上げて、言った。
瞳が潤んでいて、見ているだけで庇護欲を掻き立てられそうだ。
「フリット様は……私と結婚するのがお嫌なのですか?」
え? 何でそうなる?
嫌とは言ってないと思うんだが。
むしろ、したいですよ!
でも、推しは愛でるもの、尊ぶものであってですね……。
「まさか、セレナ姫は高貴な家のお方です。俺は軍才で身を立てただけでして。孤児だった下賤の者です。姫と釣り合いが取れない者なんですよ、俺は」
「そ、そんなことはありません。フリット様はとても素敵な方です。お父様もあなたのことを大変、出来た方と仰ってましたわ」
オルロープ卿に評価されていたとは思わなかったな。
あんな出来た人に評価されただけでも十分過ぎるだろう。
「だから、俺はあなたを守れることが出来れば、それで十分なんです」
「私はその……フリット様と一緒にな、な、なんでもないでしゅ」
また、姫の頭から、湯気がぷしゅーと出ているようだ。
何だろうね、このかわいい生き物。
「セレナ姫、分かりました。いきなり、お付き合いするというのがセオリーではないんですよ。まずはお互いを知る為にデートをしましょう」
「デ、デ、デートって、あの……あの私とフリット様が?」
「そうですよ、俺とセレナ姫がです」
「ひ、ひゃい」
頭から湯気だけでなくて、目まで回っているように見えるんだが、大丈夫かね。
手を繋いだら、気絶するんじゃないだろうか。
かわいいんだけど、これは前途多難だ。
まあ、そんなに急いで姫との仲を進展させなくても大丈夫だろう。
「ただ、俺はちょっと北の遠征に出ないといけないんですよ。すぐに片づくと思いますので来週の週末にデートをしましょう」
「遠征に出るんですのね。私、心配ですわ。フリット様はお強い方とうかがってますけど、それでも心配なのです」
「大丈夫です。何も心配されるようなことは起きませんよ。姫のお父上や先生とも約束したんです。そうだ。姫のお出かけの際に着られるドレスを送りましょう」
「ふぇ? ド、ドレス? 私には必要がごじゃましぇにゅ」
「いいえ、俺からの今日のお詫びも兼ねたプレゼントです。遠慮しないで受け取ってください。そして、デートの日まで何の心配もなさらずに楽しみにお待ちください」
「ふ、ふぁい」
本当、反応がいちいち、小動物みたいでかわいいんだが。
頭をなでなでしたくなる衝動に駆られたが触ったら、卒倒するかもしれないしな。
もうちょっと俺に慣れてくれるまでは我慢しよう。
オルロープ卿との密約も先生がつけてくれたし、北でやることも見えてきた俺は姫に別れの挨拶を告げ、意気揚々と自邸へと戻るのだった。
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