第32話 絶望は獣の顔をしている
「さあ、貴様らの罪を数えるがいい。全てを喰らって、消し去ろう。その罪ごとな!」
グオオオという天にも轟く、咆哮とともに降臨した悪魔はこの世の悪夢を濃縮したような禍々しい姿をしていた。
背中から伸びる大きな翼は闇夜に染められたように黒く、黒く禍々しい鱗粉を放出している。
全体のフォルムは人狼に似ているが、まず、身体の大きさが違った。
大きくても三メートルに届かない人狼と比べ、ゆうに五メートルを超えそうな巨体はもはや、元が人とは信じられない代物である。
また、人狼の全身が毛で覆われているのと異なり、鱗のようなものがところどころに見えている為、より異形のモノらしさが出た姿であると言えよう。
「ち、ちょっとあんなのに勝てる?」
「で、でも、あれを放っておけませんよ」
「お前ら、落ち着け。俺たちだけで相手しようってのはどだい無理な話だろうよ。ありゃ、どう見てもバケモンだからな」
エレミアとリーンハルトの二人は目の前に広がる光景がまだ、頭の中で整理出来ていないのだろう。
ブロームはさすがに歴戦の兵である。
短慮ではあるが、何も考えなしに目の前の得体の知れない化け物に突っ込んでいくほど無謀ではない。
それほどに目の前で吼えるモノは死や絶望が姿を取って現れたとしか思えないような化け物だったのだ。
「邪なる竜め。あれは存在してはいけないものです」
敵であるはずの三人をかばうように前へと躍り出たのは白き甲冑を纏った少年だった。
ベーオウルフと対峙すると槍を構えるその手に力を込める。
「だそうです。少なくともアレを倒すまで、勝負はお預けだそうで」
先程までヴァシリーと激しく、戦っていたコンラッドが大斧を肩に担いでのっそりとした様子でヴァシリーの隣に陣取った。
「倒せなくても私たちで足止めくらいは出来ます。いや、しなければならない!」
ベーオウルフが腕を一振りしただけで側にいた兵の身体が無残な肉塊となって、消えていく。
壊すこと自体を楽しむかのように周囲の兵を敵味方問わず、殺戮していく。
その殺戮を楽しむように咆哮する姿は、まさに絶望そのものが具現化しているかのようだった。
拳で殴り合って、語り合う脳筋の兄弟は一先ず、放置をしておいても平気だろう。
そうでもしないと分かり合えないかもしれない。
いや、普通に話し合えって話なんだが……。
お互いに不器用過ぎるんだろうな。
「そろそろ本陣です、
あの人はかなり目立つから、すぐ分かるはずだ。
いた!
遠目でも分かる白蛇将軍だ。
分かりやすいっていうのはどうなんだろうね。
味方を鼓舞するのに向いているが半面、目立つから狙われやすいってことだからなぁ。
あの人の場合、下手に武勇に自信があるもんだから、その辺り、過信もあるんだろうか?
「コルベール卿、お迎えに上がりました」
幸いなことに戦場に立つ者でヴェルミリオンの名と姿を知らぬ者は皆無と言っていいほどに有名だ。
特に敵対行動を取られることもなく、俺の呼びかけにも快く、応じてもらえる。
それが友好的か、敵対的かは置いといて、だ。
「これはお主への貸しということにしておこう」
「それでかまいません。エリアス卿との会談は絶対に成功させますよ。俺の名に懸けてね」
こうして、コルベール卿をヴェルに乗せることが出来た。
今度はシモンのところへ向かわないといけない。
二人が和解しないと決着はつかないからな。
「ヴェル、悪いがその前に寄り道な。あのお嬢ちゃん、多分、置いてきぼりにされてると思うんだ。拾っていこう」
「はい、
脳筋兄弟は目先しか、見えないようだ。
脳筋にはよくある話ではあるだろう。
だからって、あんな場所にか弱い女の子一人で置いてく馬鹿がいるかね?
案の定、ポツンと一人寂しく、佇んでいたハイジを拾い上げ、ヴェルに乗せた。
それはいいんがが、『た、た、高いぃぃ、ひぃぃぃ』と甲高い声でうるさいもんだから、コルベール卿が頭を押さえていたな。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます