第15話 先生と馬鹿弟子
私はユウカ。
元ド・プロット軍の将軍
今はユウカ・フォン・デルベルク。
ゲレオーア
デルベルク辺境伯のお兄ちゃん……フレデリクはまだ、リンブルクの姓を名乗るつもりみたい。
自分がデルベルクを名乗るにはまだ、禊が足りないとか、言っていたっけ。
変なところで頑固だからね、お兄ちゃんは。
お兄ちゃんは昔から、そうでした。
私がまだ、
自分のことは二の次の人なんです。
お父さんとお母さんが旅行から戻れなくなった時だって、『二人が帰るまで俺がお前を守るから』とすぐに分かるような嘘をついて、高校に通いながら、バイトで夜遅くまで働いていたんだから。
私がお兄ちゃんを助けることが出来たら、どんなに幸せなことか。
でも、私の存在自体がお兄ちゃんの枷になるって分かっている。
迷惑を掛けたくはない。
だから、戦場に立つのをやめた。
私は私に出来ることをやろうって、決めたのだ。
付け焼き刃のにわか令嬢だし、馬子にも衣裳でこんなきれいなドレスを着ても全然、似合ってないかもしれないけど、少しでもお兄ちゃんの助けになるのなら、私はいくらでも道化になる。
「ごきげんよう、お初にお目にかかります。ユウカ・フォン・デルベルク、殿下のお力添えになるべく、推参致しました」
先生が寝てから、どれくらいの時間が経ったんだろうか?
ただ、ボッーと立っているのも暇だし、芸がないってもんだ。
先生の部屋をじっくり観察するいい機会だろう。
ぐるっと部屋を眺めると物に対する執着がない人だと良く分かる。
ミニマリストなんて言葉はこの世界にないだろうが、それと同じくらいに物が置かれていない部屋なのだ。
必要最低限の机、椅子、戸棚と書棚。
戸棚はお茶を淹れるので確認したがきれいに整頓されていて、余計な嗜好品と言える物はお茶だけじゃないだろうか?
その代わり、書棚には棚から溢れかえるほどの書物がある。
まあ、確かに森の賢者の名に
「ふわぁ、良く寝た。む? 何だ、貴様。誰だ? いや、待て、今、考える。言うんじゃないぞ」
ロッキングチェアに腰掛けたまま、難しい顔でシンキングタイムに入ったらしいキアフレード先生。
さっきですよね?
俺と会ってから、そんなに経ってませんが大丈夫ですか?
いや、待てよ、慌てるな。
これはもしや、先生の罠だな?
ここで慌てたり、先生分からないんですかpgrみたいなことを言うか、どうかを試されている訳だ。
「ううむ、分からん。貴様、誰だ?」
ええ? マジで分からないんですか、罠じゃなくてですか?
「フレデリクです」
「どこのフレデリクだ。フレデリクなどいう名のやつはごまんとおるだろうよ」
「フレデリク・フォン・リンブルクです」
「ああ、お前があのフレデリクか。思ったよりも素直なようだな」
「ええ、あのフレデリクです。お褒めに預かり、光栄です」
「誰も褒めておらんわ、たわけ。それであのフレデリクがこの俺に何の用だ?」
「先生、どうか、未熟で才の足りないこの私にお知恵をお借り出来ないでしょうか」
直球で先生の力を借りたいと言って、さらに伝家の宝刀の土下座をする。
土下座には自信があるんだ。
バイトの鬼である俺にとって、土下座は必須スキルとなっていたからなぁ。
とんだブラックバイトだったよ……。
遠い目をしたくなる辛い思い出だ。
「貴様、どうして、そこまで俺にこだわる? 俺でなくても貴様が望めば、良い師など腐る数いるだろうよ」
「俺は先生に導いてもらいたいのです。誰よりも痛みに敏感である先生に導いてもらわねば、ならんのです」
「貴様、なぜそれを……ふん、そうか。痛みか、俺には良く分かるさ。では貴様は目指すと言うのか、痛みの無い世界を」
「先生がともに歩んでくだされば、必ずや道は開けると信じております」
先生はハーフだ。
それも両者から忌み嫌われるハーフエルフ。
だから、年齢に合わない少年のような容姿のまま、高い知識と教養を身に着けているし、その有用性を知らない愚か者に馬鹿にされた偉大な魔術師でもある。
そんなのが重なって、森に引き籠っていたんだろう。
「ふむ、夢を見るのはやめようと思っていたのだが……貴様と行くと面白そうな夢を見れそうだ」
「先生! ありがとうございます」
「ええい、こそばゆいわ。先生と呼ぶな。俺はキアフレードだ。キアと呼ぶがいい」
「いえ、先生は先生です。ではキア先生」
「お前、強情なやつだな……。分かった、行こうか、馬鹿弟子よ」
「はい、キア先生」
これ、ゲームだったら、ファンファーレがなって『キアフレードが仲間になりました』と出ているんだろうな。
いやっほおおお!
これで俺の仲間に足りない智恵が強化されたね。
こう言っちゃなんだが、俺も含めて、養父殿を筆頭に脳筋しか、いないからな。
直接殴り合うだけなら、最強かもしれないが世の中、それだけじゃ、駄目なんだ。
キア先生の荷造りというほど、物がなかったので必要なものだけを先生は自分の
ほくほく顔で庵を出た俺の前には不思議な光景が広がっていた。
うさぎちゃんがもふもふした真っ白なうさぎ軍団に囲まれて、恍惚とした表情をしている。
それを冷ややかな目で見ているシュテルンくんだが、目は冷ややかを装っているようだが涎が垂れているぞ。
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