第7話 凍れる牙の弱点
必然的に――間合いがある。射程があった。届く範囲に制限が存在するのである。
……それこそが、
だが――ソーマが多少の相手かと問われれば、それは違うと言わざるを得ない。
結果……こうなるのだ。
「はああああっ……!!」
気炎を上げて空気中を泳いだマティアスが、最も近くを飛ぶ巨大蜂型ソーマへ〈北兎丸〉を一閃。胸と腹の境目で両断されたその個体は、瞬間的に蒼白く凍り付く。
――その巨大蜂の氷像を蹴り砕くと同時、蹴撃の反動を利用してマティアスは宙を翔けた。
「っっちぇいっっ……!!」
〈北兎丸〉が轟かせた斬撃音は一つや二つではない。さらに一体の植物の巨大蜂が氷結・粉砕され、続けてもう一体、同様の姿のソーマが変わらぬ末路を辿る。……またも続けてもう一体……もう一体、もう一体、もう一体、もう一体もう一体もう一体もう一体もう一体……!
……が――
「…………っっ!? また、増えた……!!」
――残り二体というところで、マティアスを嘲笑うかのように蜂型ソーマはその巨躯を縦に割り開いた。再び溢れ出た無数の種子が同等の巨大蜂へと成長したのは、まばたきの間。……一体から増殖した先刻より、単純計算で倍の数の群れ……。
――それらが、宙を漂う〝
「……舐めないでほしいねっ!」
打刀の
「――ああぁぁああああああっっ!? また、間に合わなかった……!!」
……マティアスが全個体を倒し切る直前で、巨大蜂型のソーマは三度増殖した。〝
一旦、大講堂の屋根へと舞い戻り、銀髪猫っ毛の少年はその髪をガリガリと搔いた。
「ああっ、もぅ……埒が明かない……!」
……これこそ、
(……もちろん、こういう場面での対処法も、クアドラから教えられてるけど……)
……一番有効な対策である『味方の増援』は、今回何処まで期待して良いのか、マティアスには解らなかった。
――アイシア聖母学院には、三つの学科がある。
先にクアドラが名を挙げていた『教養科』は……純粋に淑女教育のみを行う学科なので、今は関係無い。
〝
であるからして、〝
結論を言おう。アイシア聖母学院の二つ目の学科は『騎士科』……凍牙騎士の養成学科だ。大講堂に集まっていた女生徒たちの三分の一以上は、マティアスやクアドラと同じく
(……そう、素直に考えられたなら楽なんだけど……)
植物の巨大蜂の三度目の殲滅失敗、四度目の増殖を体験しながら、マティアスは苦悩する。
……〝
(そりゃあ、ね……〝
ただ、それ故に……今の事態に騎士科の生徒たちは即戦力足り得ないわけである。彼女たちが一度大講堂を出、自分たちの
(……それよりも、非戦闘員の避難を終えたクアドラが助っ人に来てくれる方が早いと思う)
なので、マティアスは申し訳なく思いつつも、騎士科の少女たちには期待をしない。現状で彼がすべきは、クアドラが来てくれるまでの間、ソーマが余所に移動して被害を広げぬよう、引き付けること。
……或いは、三番目の学科の生徒から支援があるのならば――
「待たせたのう、〝
――大講堂の屋根の上に、唐突に響いた少々舌足らずな声に、マティアスは目を白黒させる。
(…………。――誰っ!?)
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