第4話 アイシア聖母学院
今の人類は、
故に、人々は
ドーム状の天蓋にて覆われたその浮島は『
そんなザ・ワンの中央区画、それの一角に『アイシア聖母学院』は校舎を構えている……。
「――長々と話してしまいましたが、これを持ちまして歓迎の挨拶とさせて頂きます。どうか、良き学院生活を! 偉大なる〝
彼の学校の敷地内に設けられた、大講堂。その壇上にて長い挨拶を終えた少女へ、最前列の貴賓席に腰掛けたマティアスは拍手を送る。彼のそれを皮切りに、講堂全体が揺れるくらいの大拍手が鳴り響いた。
それを一身に浴びることになった桜色のセミロングヘアの少女は、エメラルド色の瞳が眩い美貌をあわあわさせ――咄嗟に下げた頭を講壇へと激突させる。拍手の音でも搔き消せぬ壮絶な音が轟いて……痛みに身を震わせた彼女が講壇の向こうにしゃがみ込む姿が、講堂中に笑いを生じさせた。……とはいえ、不快感を覚えさせる厭らしい笑いではなく、少女への親近感が多くを占める笑いである。
「……生徒たちに愛されてるんだね、あの生徒会長さん。確か――」
独白のつもりだったマティアスの言葉に、彼の肩に細やかな重みが掛かった。〝
「――レナ・ダルタニアン殿下です、マティアス。
「……肝に銘じてるよ」
隣に座る、微塵も隙の無いスーツ姿のクアドラから釘を刺され、マティアスは胸の内で嘆息した。色気の無い事務的な忠告に、彼のときめきは儚く霧散してしまう。
……〝
(……そこで普通の子供として過ごしたのなんて、五歳までだけど……)
『三つ子の魂百まで』ということわざもある。田舎の庶民の血筋であるマティアスにとって、王族と対面するなど……緊張で胸が張り裂けそうな出来事であった。
……もっとも、その王族のレナ・ダルタニアン姫の方こそ、〝
「レナ殿下は今、一六歳……マティアスより一つ上ですね。このアイシア聖母学院で生徒会長を務めていることからも解る通り、極めて有望なあなたの婚約者候補です。是非、仲を深めて頂きたいものですね」
「………………」
クアドラの解説に、マティアスは苦虫を噛み潰したような表情が顔に浮かばないようにするのに、なかなかの精神力を消耗した。
(アイシア聖母学院……。今日から僕が通う羽目になった学校で、本来は女子校! 僕の……〝
創立は、〝
……特に、実際に〝
そこに、満を持して〝
今日、この日を迎えて、アイシア聖母学院の少女たちが浮足立っているのは、初めてここへ足を踏み入れたマティアスにも解るほどだった。早朝に学院敷地に入ってから、マティアスが視線を感じなかった瞬間は
(……いたたまれない……。――いや、それが、多くの男性から見れば贅沢な悩みなんだってことは、解るんだけど……)
表情は穏やかな微笑を保持したまま、マティアスの心中では溜息が止まらない。
(……この学校の女の子たちは、皆綺麗だし……性格だって良いんだと思うよ。身分だって、ほとんどが貴族だって聞いてる……。それどころか本物の王女様だって通ってるわけだしね!)
マティアスと、壇上のレナ王女の目が合った。頬を赤らめて目礼する彼女が、マティアスに悪感情を抱いていないことはいくら何でも察せる。
その気になれば、お姫様までよりどりみどり。もしかしたら男の夢・ハーレムだって作れるかもしれない……そんな環境が、マティアスの為にお膳立てされているのである。
(だけど……あぁ……だけど、さ……)
……それを全く嬉しいと思わない自分を自覚して、マティアスはそっと己の隣を盗み見た。
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