第27話 三姉妹の事情・後編
ニーテが溜息混じりに言う。
「私たち三人は、元々は平民です。同じ両親から生まれた、血を分けた姉妹ですよ。ただ……それぞれが別の貴族の家に、養女として引き取られました」
「三人とも、
ラーンが端的に述べた理由に、マティアスは頷き返す。
いつか、夜の
(その結果、後継者が一切居なくなる貴族の家も……まぁ、少なくないんだよね……)
そんな時、その家系がどうするかといえば、余所から
(ラーンさんたちはそのパターン――とは、違うんだけど……)
マティアスは、自分が間接的な原因である為、妙な罪悪感を抱いてしまう……。
マティアス=〝
そういう貴族たちが、それでも己の一族の娘を〝
(……〝
なのだが、当時の情勢的に、マティアスと同年代の貴族の少女たちが他家に養子に出された事例は稀であった。……それはそうである。自分たちの家と〝
結果として、〝
(ラーンさんたち姉妹はそのパターンだ。……だから、〝
「――えぇと、多分、マティアスくんが思ってるほど、わたしたちシビアな立場じゃないからね? 〝
「……え。そうなの?」
目をパチクリさせる女装〝
「他の家がどうかは、流石に解りませんけど……私のミラード家、姉さんのアンシャリア家、それにホリーのアーノルド家は、そこまで非情ではありません」
「うん。まあ、えぇと……〝
「その上、改めて嫁ぎ先を探すのも難航しそうですが……」
(……あぁ、うん、まぁ……そっか……)
マティアスも察する。アイシア聖母学院のみでなく、マティアスと一つ屋根の下で暮らして接しているラーン、ニーテ、ホリーには、〝
(……妻とする女性に純潔性を求める男性は、何だこうだで一定数居るっていうし……)
その点を鑑みると、ラーンたち姉妹は他の〝
深々と溜息を吐くニーテとラーンに、マティアスは貴族社会のしがらみに翻弄される元平民の少女たちの悲哀を感じたのだった……。
「……わー、何かお姉ちゃんたち、重い話してる……」
――そこに、てくてくと帰ってきたのはホリーである。行列へと並び、待ち、確保してきた何らかのスムージーをストローで啜り上げつつ、大きな瞳を半眼にしていた。
他人事ではないはずなのに他人事のような反応の末妹に、
「……ホリー、貴方はどうしてそうも気楽なの……?」
「……えぇと、ホリー? ホリーももう貴族の令嬢で、その上わたしたちの家よりも爵位が上の家の娘なんだから、ちゃんと自分の将来のことに向き合っておかないといけないと思うの」
呆れ気味なニーテ、心配げなラーンに、ホリーはあっけらかんととんでもない返答をしたのである――
「だってー。あたしもお姉ちゃんたちも、それだけじゃなくて〝
――マティアスは、飲んでいたバナナとヨーグルトのスムージーを盛大に噴いた。
「げふっ! ごほっ! がはっ!? な……なっ、何言い出してるのホリーいきなり!?」
動揺から目をぐるぐると回す〝
「だってだってー。〝
「……………………」
(……男女関係のモラルとか、個々の感情とか、その他諸々の問題はあるけど――)
それら全てを『人類の救済』という大義名分の下、度外視した時――ある種の筋が通り、理にも適っているから、マティアスは困った……。
「……って、駄目! やっぱり駄目!! というか、ラーンさんもニーテさんも黙り込まないでよ!? 何か、真面目な顔で検討してない!?」
「――え!? えぇと……わ、わたし、そんな顔してた……?」
「……ご、誤解です! 私はホリーの妄言に絶句していただけで、検討などしていません!!」
ラーンとニーテが反論して……狭い路地に巻き起こった騒動は、大通りを往く人々が何事かと覗き込むほどにヒートアップしていくのであった……。
それでも恋せよアマデウス~救世主の父親と預言された少年は、自分の婚約者を育成する学校に通い……だけれど本当に好きな人には振り向いてもらえない 天羽伊吹清 @ibukiyo
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