第16話 改造人間サマーン~修羅場変~

私立地球防衛軍による雅誘拐事件から、数日が過ぎた。

俺は、バイト先で久しぶりに田所 春菜の姿を見かけた。

「あ、こんにちは、サマ、じゃなくて、佐山君」

田所 春菜は、言った。

俺も、挨拶をした。

「久しぶりだな、スプ、じゃなくて、田所さん」

所長は、留守だったので、俺たちは、しばらく二人きりだった。

気まずい沈黙が流れた。

「あの」

静けさに耐えきれず、田所さんが口を開いた。

「どうして、改造人間なんかになったんですか?」

「俺は」

俺は、言った。

「別に、好きでなった訳じゃない。兄貴が勝手に、改造してたんだ」

「そうなんだ」

「田所さんは」

俺は、きいた。

「なんで、改造人間になったわけ?」

「実は、私の家は、貧乏が酷くって」

田所さんは、話始めた。

「父は、会社経営をしてたんですが、事業に失敗して、失踪しました。しばらくは、母が一人で働いていたんですが、母も、体を壊してしまって。まだ、年端もいかない弟と妹もいるので、私がしっかりしないといけなくて」

「それで、改造人間になったの?」

俺がきくと、田所さんは、頷いた。

「すごく、時給がよかったんです」

「そうなんだ」

俺は、きいた。

「ちなみに、いくら?」

「1500円です」

「ええっ?」

俺は、驚いた。

この娘は、時給1500円のために、あんな変な改造をされたのか?

「マジで?」

「はい」

田所さんは、笑顔で言った。

「それに、あそこは、賄いつきだし、スナックの残り物もいただけるので」

不憫、だ。

俺は、同情を禁じ得なかった。

俺も、わりと貧乏で、めぐまれない星のもとに生きているが、この娘は、もっと酷かった。

俺は、言った。

「何か、俺にできることがあれば、何でも言ってくれ」

「それなら」

田所さんは、言った。

「今度、戦うことがあったら、おとなしく、殺られて下さい」

「それは、ちょっと」

俺は、言った。

「もっと、俺を生かす方向で、できることは、ないの?」

「なら」


「ありあとうごあいまふ」

田所さんは、口一杯に牛丼をほうばりながら、俺に言った。

俺は、言った。

「いいよ、これぐらいなら」

田所さんは、特盛の牛丼を、女子とは思えない様相で、掻き込みながら言った。

「ふごく、おいひいです」

「ご飯粒が、飛んでるよ」

俺は、自分の分の牛丼を田所さんに差し出した。

「これも、食べる?」

「ふぁい」

田所さんの目が野獣のように光っていた。

がっついている田所さんを見ながら、俺は、言った。

「そんなに、お腹が空いてたの?」

「ふぁい」

田所さんは、もぐもぐ、ごっくん、としてから言った。

「今月は、電気代が払えてなくて、もう、3日、何も、食べてなかったんです」

「マジで?」

俺は、きいた。

「バイト代は?」

「父の借金の支払いがあって」

田所さんが言った。

「何か、借金取りの人が、もっと稼げるバイトを紹介してくれるっていうんですが、私には、ちょっと無理っぽくて」

「どんなバイト?」

俺がきくと、田所さんは、笑顔で答えた。

「何か、写真のモデルになったり、ビデオ映画の女優さんになったり、はっきり言えば、アイドルだそうです。でも、私みたいな、地味な子じゃ、アイドルは、できないかなって」

「賢明、だよ」

俺は、言った。

「君は、かわいいけど、そんなアイドルには、なって欲しくないな」


「兄さん」

俺は、帰宅してから、兄貴に言った。

「金を貸してくれないか?」

「何だ?」

兄貴がきいた。

「その年で、ギャンブルでもはまったか?それとも、風俗、か?」

「どっちも、18才未満は、だめだよね」

俺は、言った。

「そんなんじゃないけど」

俺は、田所さんのことはふせて、困っている人がいて、とだけ兄貴に話した。

すると、兄貴は、言った。

「いいよ」

「マジで!」

喜んだのも束の間、兄貴は、俺に言い放った。

「サイボー○ 009の004並みに、改造させてくれるなら、喜んで貸してやるよ」

「004」

俺は、少し、考えた。

004。

本名、アルベルト・ハインリヒ。

年齢、28~30歳のドイツ人。

あだ名は、死神。

全身武器の戦闘用サイボーグ。

確か、右の指は、24口径のマシンガン、左手は指が、ダーツ型手裏剣、手の甲は、レーザーナイフ、眼球は、照準眼。

大腿部には、マイクロミサイルを装備。

そして、体内には、広島型原爆を組み込まれているという伝説のサイボーグ。

ガチで、兵器じゃん。

「そんな体にして、俺をどうする気だよ。兵器として、売り出すつもりかよ」

「だから」

兄貴は、言った。

「悪の組織と戦うために、ちょっとカスタムするだけじゃん」

「えっ?」

俺は、言った。

「その悪の組織って、アストロ団のことだよね?ブラック○ーストじゃなくて」

意味がわからない。

しかし。

「本当に、改造させてやったら金を貸してくれるの?」

「間違いなく」

兄貴が言うので、俺は、仕方なく、承知した。


俺の改造の日。

白衣を着た兄貴の待つ、手術室、兼、お茶の間に、俺が入ろうとした時だった。

「待ってください」

「ええっ?」

田所さんが飛び込んできて、叫んだ。

「サマーンを、いや、佐山君を改造しないで下さい」

「田所さん」

俺は、すごく、嬉しかった。

彼女のその言葉のためだけに、俺は、改造されてもいい、と思ったとき、彼女は、言った。

「サマーンだけ、そんな、かっこよくなったら、困るから、やめてください!」

田所さんは、言った。

「佐山くんを改造するなら、私も改造して下さい!」

「ええっ?」

俺は、耳を疑った。

兄貴は、言った。

「ええっ、どうしようかな」

「やめてくれ!」

俺は、叫んだ。

俺の周りには、変態しかいないのだろうか?




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