第10話 改造人間サマーン~会合変~

「いいか?サマーン」

兄貴は、言った。

「乙女が悲鳴をあげたら、雅が音楽を流す。そして、間君が『誰だ?』ときいたら、いよいよ、登場、だ」

「はいはい」

俺は、やる気なく、頷いた。

「わかりました」

「では、いよいよ、作戦、開始だ」

兄貴は、雅に頷いてから、俺に言った。

「幸運を祈る」


俺は、公園のトイレの裏で待機していた。

めちゃくちゃ、蚊が飛んできて、俺は、まず、蚊にボコボコにされた。

そのとき。

女の悲鳴が聞こえた。

雅が、CDラジカセのスィッチをいれる。

もの悲しい、古賀メロディのギターが流れ出す。

渋すぎ、だろ。

俺は、心の中で呟きながら、立ち上がった。

『早く、行け!』

雅が、サインを送ってきて、俺は、ため息をついた。

すると、奴は、俺の尻を思いっきり蹴飛ばしやがった。

いつか、こいつは、殺す。

俺は、よろめきながら、トイレの裏から間さんたちの 前へと出た。

「誰だ?お前は」

間さんが、棒読みに言った。

俺の姿は。

上半身が虎柄タイツ。

下半身が赤のビキニ。

仮面で、顔を隠し、頭には猫耳をつけているという、どこからどう見ても、変態ルックだった。

そして。

右手には、冷凍サンマブレード。

左手には、握り飯。

絶対に、おかしいだろ!

「お前は」

間さんと、変装した田中君が、叫んだ。

「ヘンタイ?」

「違う!」

俺は、そこは、強調した。

「私は、正義の改造人間サマーン、だ」

「ヘ、ヘンタイ、だ!」

田中君が、大声で言った。

何か、ムカついて、俺は、田中君を冷凍サンマブレードで思いっきり殴り付けた。

流血する田中君。

間さんがそっと小声で言った。

「何するんだ、サマーン!作戦と違うぞ!」

俺は、うだうだ言っている間さんのことも殴り倒した。

「ぎやああぁぁ!」

俺は、とりあえず、二人を気がすむまでボコってから女の方を振り向いた。

そこには。

俺の憧れのマドンナ、佐々木 素子先生の姿があった。

俺は、動揺してしまい、頭が真っ白になって、その場に立ち尽くした。

『サマーン!おにぎり!』

田中君がボソボソ言うのが聞こえて、俺は、はっとして、思わず、口走った。

「あ、あの、お握り、食べる?」

佐々木 素子先生は、叫んだ。

「助けて!誰か!犯される!」


終わった。

俺は、走り去っていく佐々木 素子先生の後ろ姿を見送りながら、涙を流した。

俺の、青春よ、さらば。

トイレの裏から走り出してきて、田中君たちを助け起こしながら、雅が、言った。

「おい、豚!○玉出てんぞ!この、ヘンタイ、が!」

「ええっ!」

俺は、前を隠して叫んだ。

「早く、言ってよ!」

俺は、ものをパンツに押し込みながら、思っていた。

まじで、俺は、終わった、と。


「第1回 正義の味方、サマーンについての反省会を行います」

雅がスタッフルームで言った。

俺は、部屋の隅っこでくすんくすん、泣いていた。

めがねっ娘の川島さんが、俺の背を叩いて、言った。

「ドンマイ、サマーン」

「川島さん」

「大丈夫よ、世の中には、君より、凄いヘンタイだっているんだから」

「ええっ?」

俺は、言葉を失った。

雅が、言った。

「おい、そこの豚野郎!さっさと、こっちに来い!」

「嫌だ!」

俺は、叫んだ。

「もう、俺をほっといてくれ!」

雅は、ふぅっと、ため息をついた。

次の瞬間。

部屋の明かりが消えて、音楽が流れる。

ハッピーバースデーの歌だった。

そこにいる俺以外の全員が歌っていた。

暗い部屋の中に、ロウソクのついたケーキを持って、兄貴が入ってきた。

兄貴は、俺にケーキを見せて、言った。

「誕生日、おめでとう!サマーン、いや、直之」

そう。

今日は、俺の17才の誕生日だったのだ。

「兄さん」

俺は、涙を拭い、ケーキの方に向かって、ロウソクの火を吹き消した。

部屋の明かりがついて、間さんと安井さんが手を叩きながら、言った。

「おめでとう、サマーン!」

「おめでとう、直之」

田中君が、きれいにラッピングされたプレゼントを俺に渡して言った。

「誕生日、おめでとう」

「ありがとう、みんな」

何だか、嬉しくなって、俺は、目尻に違う涙がにじむのを感じた。

「さあ、ケーキを食べようか」

兄貴が言って、俺は、ケーキをもう一度見た。

そこには。

『サマーン、デビュー、おめでとう』

俺は、ちゃぶ台をひっくり返して叫んだ。

「ばーかばーか」

そして、俺は、部屋を飛び出した。


こいつら、みんな、ばかばっかりだ!


追伸。

田中君のプレゼントは、大人のオモチャと、ローションのセットでした。

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