第11話 改造人間サマーン~スカウト変~
学校からの帰宅途中、俺は、見知らぬ女に呼び止められた。
「サマーン、こと、佐山 直之君、だったわね」
そのサングラスの、化粧の濃いめの、年増の女を、俺は、じっと見つめた。
「違うって、言ったら?」
「なら、あなたの愉快なお仲間たちのところに行くだけよ」
彼女は、言った。
「だけど、うちの連中は、けっこう、荒っぽいのよ。あの、おばかな人たちに怪我をさせちゃうかもしれないわね」
ふぅ、と、俺は、ため息をついた。
女は、俺を、開店前のバーに連れていった。
バーの名前は、『アンタレス』
「蠍座の星、よ」
女は、俺に椅子をすすめながら、言った。
バーテンダーが、そっと、俺たちに飲み物を出す。
女には、ウィスキー。
俺には、ミルク、だった。
「蠍座は、ね」
女が言った。
「全ての人々の幸いのために1000回だって、炎に焼かれる星、よ」
「そうなんだ」
俺は、言った。
「それで、なんの用なんですか?」
「つれない子ねぇ」
彼女は、つまらなさそうに言った。
「まあ、いいわ。あなた、正義についてどう思う?」
「はい?」
俺は、言葉に詰まった。
きました。
はい、おかしな人、でました。
嫌な予感中の俺を 無視して、女は、言った。
「あなたたちがやってる、正義の味方ごっこのこととかじゃないわよ。もっと、普通の、一般的なもののこと、よ」
「はあ」
俺は、言った。
「特に、何も」
「ええっ?」
女が、驚いたように言った。
「改造までされてるのに?」
「好きで、されたわけでは、ないので」
女は、呆れたような顔をしていたが、すぐに、自分を取り戻し、言った。
「さすが、兄弟、ね。お兄さんと同じことを言う」
「兄貴、と?」
俺は、きいた。
「あんたたち、兄貴のとこにも行ったのか?」
「当然、よ」
女は、頷いた。
「あなたのお兄さんは、人間としての資質は、どうあれ、天才といえる科学者ですもの。あんな、おちゃらけた連中と遊ばせておくのは、もったいないわ」
「どういうこと?」
俺は、きいた。
「あんたたち、何をたくらんでんの?」
「まずは、私たちが何者か、じゃないの?」
女が俺をグラス越しに見つめていった。
「私たちは、真に正義を行う者」
「なに、それ?」
俺は、嫌な予感がしていた。
「あんたたち、何者なわけ?」
「私たちは」
女が言った。
「正義の味方、『ミカンダー』よ」
「ええっ?」
俺は、女に小声できいた。
「それって、大丈夫なんですか?コンプライアンス的に」
「大丈夫、よ!一文字違えば、まるで、別人、なんだから」
女は、言い切った。
俺は、きいた。
「なんで、あんたたちが、俺や、兄貴に声をかけてんの?」
「それは」
女は、言った。
「あなたのような改造人間をつくるだけの技術と才能を持ちながらお遊びでヘンタイ的なことばかりやってる、あなたの兄さんと、回りの言うことにどんどん流されていっちゃってる扱いやすい改造人間のあなたを、スカウトするため、よ」
「スカウト?」
「そうよ」
女は、ロックグラスを揺らしながら言った。
「今の時代、なかなか、改造人間を作ろうって言うような危ない科学者や、それに、改造されちゃう人のいい人間なんて、いないんだもの。あなたたちは、貴重な存在なのよ」
「で、兄貴は、なんて?」
「あなたのお兄さんは」
女が、腹立たしそうに言った。
「そんなものに興味は、ない、ですって」
「なるほど」
俺は、頷いた。
兄貴は、正義になど興味は、ないのだ。
兄貴が興味があるのは、いかに、俺をおちょくるか、とか、そんなことだけだ。
「あなたは?」
彼女がきいた。
「サマーンは、どうしたい?」
「はあ」
俺は、考えた。
訳のわからない正義の味方のスカウト、と、大体のところは、知っている程度のしれた悪の組織。
どちらか、選べというのか?
俺は、頭を振った。
どっちも、どっちじゃないか。
ならば。
「俺は、あんたたちのところには、行かない」
「なんで?」
女が言った。
「より良い施設、優秀なスタッフ、それに、時給だって2000円なのよ」
「そんなことは 」
俺は、言った。
「問題じゃない」
そう。
もし、俺が、見捨てたら、あの連中は、どうなってしまうのか。
悪の組織『アストロ団』の良心。
それが、俺、だ。
「後悔するわよ」
女が、言ったから、俺は、笑った。
「後悔なら、いつも、してるよ」
そして。
俺は、バーを後にした。
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