第7話 改造人間サマーン~英雄変~
俺は、ついに、切れて、兄貴に訴えた。
「本当に、もとの姿に戻してくれないなら、もう、兄弟の縁を切るからな!」
「マジか?」
兄貴が言った。
「お前は、たった一人の俺の弟だ。失うわけには、いかん」
「なら」
俺は、言った。
「もとの姿に戻してくれるのか?」
「わかった」
兄貴は、あっさりと頷いた。
「何とかしてみよう」
そういうと、兄貴は、冷蔵庫から冷やした麦茶を出して、コップに入れると、俺にすすめた。
「まあ、麦茶でも飲んでゆっくりしろよ」
「ああ」
俺は、何の気なしに受け取り、ごくごくっと飲み干した。
そして。
翌日。
うっ。
俺は、正体不明の頭痛にうめいた。
また、やられたのか?
俺は、嫌な予感と共に、ゆっくりと、目を開いた。
いつもの、俺の部屋だった。
俺は、起き上がると、鏡に向かって走った。
そこには。
線の細い感じの、まあまあの美少年の姿があった。
つまり、もとの、俺の姿だった。
「やった!」
俺は、叫んだ。
「もとの姿に戻れたんだ!」
これで、俺の人生は、薔薇色だ。
俺は、心に誓っていた。
今日こそは。
佐々木 素子先生に告白をしよう!
俺は、朝飯もそこそこに、急いで、家を出た。
そして。
気がつくと、俺は、再び、ベットの中にいた。
頭が、重い。
うん。
何だろう、この感覚。
体が。
重い。
俺は、ゆっくりと目を開いた。
そこは、俺の部屋だった。
「あれ?」
俺は、起き上がりながら、呟いた。
「俺は、確か、もとの姿に」
そう。
俺は、確かに、もとの姿に戻って、佐々木 素子先生に告白するつもりで家を後にしたはずだった。
確かに。
そして。
ああ。
そうだった。
俺は、思い出していた。
家を出て、30メートルほど進んだところで、車が俺の方に突っ込んできたのだ。
「俺、どうなったんだ?まさか、死」
俺は、慌てて、起き出して鏡に向かった。
そこには。
もとに戻る前の俺。
つまり。
ゴリラ系ラガーマンな俺の姿があった。
「どういうこと?」
「説明しよう」
不意に、兄貴の声がして、俺は、そっちを振り向いた。
白衣姿の兄貴は、にやりと笑った。
「あの日、浮かれて家を飛び出したお前は、近所の老人ドライバーの車にひかれ、瀕死の重症を負ったのだ。そのお前を助けるために、俺は、再び、お前を改造したのだ」
「ええっ?」
俺は、驚きの声をあげた。
「俺、また、改造されちゃったの?」
「そうだ」
兄貴は、言った。
「お前は、新生サマーン2号、だ!ちなみに、1号との違いは、2号の方が少しだけ、毛深くなっているんだ」
「どうでも、いいわ!」
俺は、叫んだ。
こうして。
俺のもとの姿への改造は、失敗に終わった。
仕方がないので、俺は、とにかく、証明写真をとって、履歴書を書き、新しいバイト先に申し込んだ。
そこは。
正義の味方の味方、だった。
小さな、探偵事務所のアルバイト アイの仕事だった。
そこの所長は、少し、変わっていたが、俺のことを見るなり、笑顔でいってくれた。
「採用!」
そして。
俺は、新しいバイト先を得た。
俺の新しいバイト先は、『宇佐美探偵事務所』というところだった。
所長は、もと、2丁目のゲイバーで働いていた、刑事崩れのおかまでトミィと名乗った。
「本名は、富永 健司なんだけど、みんなからは、トミィって呼ばれてるの」
くねくねしながら、所長は、俺に言った。
「うちは、力仕事も多いから、佐山君みたいな子は、ぴったりよ」
「ありがとうございます」
俺は、頭を下げた。
ちなみに、時給は、1500円だった。
ここの仕事は、弁護士からの依頼を受けての身辺調査がほとんどだった。
俺は、もと刑事の所長に手取り足取り、仕事を教わった。
そして。
気がつけば、所長の右腕と呼ばれるようになっていた。
といっても、この事務所には、所長の他には、俺しか、スタッフはいなかったのだが。
そんな、ある日のことだった。
事務所に、おかしな依頼が舞い込んできた。
それは、ある夕方のことだった。
一人の黒衣の女が、やって来て、言ったのだ。
「正義の味方を探して欲しい」
と。
所長は、言った。
「無理よ、そんなものは、探したければ、自分で、自衛隊でも、警察でも、行きなさいな」
「いえ」
女は、言った。
「私は、見たんです」
女が言うには、猫ミミで、上半身は、虎柄のタイツ、下半身は、赤いビキニという、仮面の男が、ある朝、子供たちの通学の列に飛び込んできた車から、自分の息子を助けてくれたらしい。
「ぜひとも、探しだして、お礼をしたいのです」
そう、女は、言った。
所長は、女が帰った後で、言った。
「あれは、おかしな話よね。あの女は、正気じゃなかったわ」
だけど。
俺は、知っていた。
ヒーローが、実在することを。
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