第19話 改造人間サマーン~イタコ変~

「勝負よ!学、どちらの改造人間が上か、今日こそ、雌雄を決するのよ!」

無駄に美人な科学者、峰 文子が、田所さん、こと、スプリング8号をつれて、朝から、ハイツの前の駐車場で騒いでいたので、俺は、無視して、学校へ行こうとしていた。

ところが。

文子が、

「出てこないとは、やはり、そちらの改造人間の方が、弱いということを認めたのね!」

と言い出したとたん、兄貴が、言った。

「サマーン、ちょっと、行って、軽く捻ってくるがいい」

「嫌だよ」

俺が、鞄をもって家を出ようとすると、兄貴は、言った。

「奴と勝負したら、特別手当て5万くれてやる。さらに、勝利したら、プラス5万だ!」

「しょうがないな」

俺は、引き返して、鞄をおいた。

「少しだけだぞ」


「というわけで」

兄貴が、ハイツの前に陣取る文子に、拡声器で言った。

「勝負だ!スプリング8号!」

「望むところよ!」

文子が、言った。

「行きなさい!スプリング8号!」

「お、おはよう、田所さん」

俺は、ハイツの階段を下りて、二人に近づきながら言った。

「朝から、大変だね」

「おはよう、佐山君」

田所さんが、はにかんで笑った。

「いつも、ごめんね」

「では」

兄貴が言った。

「思う存分、死合うがいい!サマーンよ!」

「ええっと」

俺は、田所さんに言った。

「実は、俺、改造人間としての能力を把握してなくて、先攻は、そちらから、お願いします」

「はい?」

田所さん、こと、スプリング8号が、困ったような顔をする。

「実は、私も、あまり殺傷能力の高い技は、持ってなくって。あ、新しくつけられた能力、見てくれます?」

「えっ?何?」

俺がきくと、田所さんが満面の笑みで言った。

「じゃあ、スプリング8号、行きます!」

俺は、どんな技がくるかと、身構えた。

が。

田所さんこと、スプリング8号は、身動き一つしなかった。

「た、田所さ」

俺が、声をかけようとしたとき、急に、田所さんが、かっと、目を見開いて叫んだ。

「2020年、空から、魔王が降臨するのが見えます」

「はい?」

俺がきくと、田所さんは、続けた。

「そして、あなたの来年の運勢は、大凶です」

「ええっ?」

とまどう俺をしりめに、田所さんが言った。

「こんなんでましたけど?」

「何、それ?」

「あ、ごめんなさい」

田所さんが言った。

「イタコ機能がついたの、私」

「イタコ?」

俺は、きいた。

田所さん、こと、スプリング8号が言った。

「恐山で霊の言葉をきく、あの、イタコの機能のことよ」

「そうなんだ」

俺が言ったら、田所さん、こと、スプリング8号は、嬉しそうに言った。

「ちなみに、今、降りていたのは、ノストラダモス、よ」

「へぇ、すごいね」

俺は言った。

「じゃあ、俺は、学校に行ってくるよ」

「ちょっと、待って!」

田所さんが、言った。

「勝敗を決めないと、困るのよ!」

「はい」

俺は、言った。

「なら、俺の負けでいいですよ」

「やったぁ!」

田所さん、こと、スプリング8号が叫ぶ。

「サマーンを倒した!」

「よくやった!スプリング8号!」

文子が、叫んだ。

「これで、あなたも、私の力を認めざるを得ないでしょう?学」

「ああ」

兄貴が、拡声器で言った。

「わかった。お前は、今日から、俺の美人助手2号、だ」

「本当に?」

文子が、感涙に咽びながら、言った。

「うれしい、学」

「どうでも、いいわぁ」

俺は、鞄を持つと、学校へと向かって歩き出した。




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