第4話 改造人間サマーン~悪の組織、胎動変~

初秋のある日のことだった。

兄貴がバイトに出掛けようとしている俺を引き留めて言った。

「直之、今日は、大事な話がある」

「大事な話?」

また、何か、おちゃらけたことだろうと思った俺は、無視して、バイトに行こうと、家を出た。

ハイツの階段を下りたところで、兄貴が、もう一度、俺を引き留めた。

「直之!お前の今後に関わる大切な話なんだ!」

「俺の今後に関わる話、だって?」

俺は、振り向いた。

「本当か?」

「本当だ」

兄貴が真面目な顔で、俺に、頷いて、言った。

「お前の将来に関わる重要な話だ」

「わかった」

俺は、すぐに、携帯を取り出して、コンビニの店長に電話をいれた。

「すみません、店長。俺の将来に関わる大切な用事ができたので、今日は、どうしても休ませて欲しいんです」

店長は、怒り狂っていたが、俺は、どうしてもと頭を下げた。

「俺の一生がかかってるんです」


とりあえず、明日のシフトと変わってもらった俺は、兄貴と一緒に、大家が特別に使わせてくれているという一階の空き部屋に赴いた。

そこには、看板が出ていた。


『悪の組織、スタッフルーム』


何て、頭が悪そうな看板なんだろうか。

俺は、信じられない思いで兄貴を見た。

兄貴は、さすがに、気まずそうな顔をして言った。

「みんな、熱心に考えてくれてるんだが、まだ、組織名が決まってないんだ」

「いや、そんなことじゃなくて」

俺は、言いかけて、やめた。

ドアが開いて、桜ヶ丘 雅が顔を出したからだ。

雅は、にっこりと、天使のような笑顔を俺に向けた。

「直之さん、お待ちしてたんですよ」

「ああ?」

俺は、なぜか、悪い予感がしていたが、兄貴に促されて、『悪の組織、スタッフルーム』へと入っていった。

「いらっしゃいませ」

メイド服姿の雅が、俺に、ぺこりと頭をさげて、俺を部屋の奥へと案内した。

奥といっても、ちゃぶ台のある和室に座布団をしいて、他の連中が車座に座っているところへ、通されただけだった。

俺は、空いているところに腰を下ろすと言った。

「みんな、揃ってるんだ」

「どうも、直之さん」

間が、頭を下げて、グヘヘッと笑った。

他の3人もそれぞれ、俺に挨拶をした。

ちなみに。

間の右となりの小山のようにでかい、太っちょの男は、安井 隼人、31才。

なんでも、最近まで、引きこもりだったらしく、親になんだもいいから働けといわれて、ここの面接にきたという人物だ。

安井の隣の真面目そうなお下げのメガネっ娘は、川島 直子、21才。

どこの企業からも内定を貰えず、焦って受けた悪の組織に入社が決定し、喜んでいるらしい。

最後が、ちょっとここにいるのが信じられない普通の美少年である田中 真司、15才。

志望動機は、町で兄貴にスカウトされたから、だそうだ。

「これで、みんな、揃ったな」

兄貴が、中央に、どかっと座り込んだ。

その後ろに、雅がそっと座った。

なんだ?

この二人は、できてはるの?

俺が、考えていると、兄貴が、言った。

「ただいまから、第1回、悪の組織、スタッフミーティングを始めます」

雅が、拍手する。

俺は、胡散臭そうに言った。

「スタッフミーティング?」

「そうだ。議題は、悪の組織の正式名称について、だ」

「何?」

俺は、思った。

騙された、と。

「俺の将来に関わる大切なことじゃなかったのか?」

「もちろん、お前のことについても話し合う予定だ」

兄貴は、言った。

「光を輝かせるためには、より深い闇が必要なのだ。わかるだろう?直之」

「わからねぇよ」

俺は、立ち上がろうとした。

すると、兄貴は、言った。

「特別に、時給1万円払おう」

「はい?」

俺は、きいた。

「時給1万円?」

「そうだ」

兄貴は、言った。

「他のスタッフの10倍だぞ」

「どこから、そんな金が出るんだよ」

俺は、きいた。

「うちは、貧乏だった筈だよな?」

「ああ」

兄貴が言った。

「3ヶ月前にサマージャンボが当たったんだ」

「いくら?」

俺が聞くと、兄貴は答えた。

「3億円、だ」

「何」

「だが、それも、今は、昔の話」

兄貴が言った。

「お前の改造に3億5千万円かかったからな」

「おい、ちょっと、待て」

俺は、そこはかとなく嫌な予感に襲われていた。

「その足りないところは、どうしたんだよ」

「それは」

兄貴が目をそらした。

玄関の扉が開いて、誰かが入ってきた。

その無駄に男前な感じの強面の男は、一目でヤクザだとわかるタイプの奴だった。

「どうも、小林金融の中西です」

「あ、お世話になります」

兄貴が頭を下げて、俺を指差して言った。

「これが、ドナーの直之です」

「ドナー?」

俺がきくと、兄貴が笑っていった。

「大丈夫だ、腎臓1つだけだから」

「はい?」

「じゃあ、行こうか、直之君」

ヤクザのお兄さんが、俺の肩をがっしりと

掴んで言った。


それから、5日後。

帰ってきた俺に、兄貴は、言った。

「組織名は、アストロ団だ」

「何、それ?」

疲れはてた、俺の頬を、涙がナイヤガラの滝のように流れ落ちた。


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