第3話 改造人間サマーン~面接変~

翌日。

俺が学校に登校しようとすると兄貴が、にっこり笑って言った。

「今日は、面接の日だろう?」

それが、どうした?

俺は、兄貴を無視して学校へ行こうとした。

今日こそは、佐々木 素子先生に告白するのだ。

こんな姿になってしまったとはいえ、心は、変わらない。

そんな、俺に、兄貴は、言った。

「面接に立ち会ってくれたなら、例の話、考えてみてもいいんだが」

「何」

俺は、振り返った。


例の話とは。

昨夜のことだ。

病院から帰ってきた兄貴に、俺は、きいた。

「俺の体をもとに戻すことは、できないのか?」

「うーん」

兄貴は、考え込んだ。

「できると言えば、できるんだが」

兄貴は、言った。

「予算が、なぁ」

「予算?」

俺は、きいた。

「いくらだ?いくらあれば、いいんだ?」

「10億円」

「はい?」

俺は、がっくりときた。

もう、俺が、もとの姿に戻ることは、無理なのか。

そんな、俺を見かねたのか、兄貴が、俺に言った。

「もっと、お安いコースもあるには、あるんだが」

「何、それ?」

俺は、きいた。

「何だよ、いってみろよ」

「クローンを作って、脳を移植すれば、だいぶん、お安くすむんだが」

兄貴が、嫌そうに言うので、俺は、きいた。

「何か、問題があるのか?」

「ああ」

兄貴が、真剣な顔で言った。

「いろいろ、法律に引っ掛かって。最近は、倫理規定が厳しいから」

「なんや、それ!」


「面接に付き合ったら、まじで、もとの姿に戻してくれるんだな」

俺は、兄貴にねんを押した。

兄貴は、頷いた。

「気は、すすまないが、努力は、しよう」


というわけで。

俺は、悪の組織の構成員の面接に立ち会うことになった。

面接は、俺たちが住んでいるハイツの空き部屋を大家さんに特別に借りて行われた。

部屋の中央に、ちゃぶ台を置いて、俺と兄貴は、その前に座布団をしいて座った。

「では、1番の方、どうぞ」

兄貴が言うと、ドアが開いて、人が入ってきた。

ぼさぼさの長髪に、出っ歯の近視らしい眼鏡の男が入ってきた。

「まあ、座りなさい」

兄貴が、ちゃぶ台の前の座布団をすすめた。

男は、頭を下げて、座った。

「失礼します」

「名前は?」

兄貴がきくと、男は、答えた。

「間 雄平、27才、です」

「なぜ、この度の募集に応募されました?」

俺は、きいた。

すると、間は、信じられないことを言った。

「堂々と、悪いことがしたいからです」

「はい?」

俺は、耳を疑った。

「何ですと?」

「だから、堂々と、悪事を働きたいからです」

間は、堂々と、答えた。

兄貴は、頷いて言った。

「いいね、君」

兄貴は、きいた。

「例えば、どんなことをしたいですか?」

「自分は、若い女が好きなんですが」

間は、臆面もなく言った。

「とにかく、若い女にセクハラしたいです」

「何だって?」

俺は、かなり、ひいていた。

通報した方がいいんじゃないか?

俺は、兄貴を見た。

兄貴は、満面の笑みを浮かべて、言った。

「はい、採用!」

「何で?」

俺のことを無視して、間が頭を下げた。

「ありがとうございます」


「次!」

兄貴が言って、ドアが開くと、今度は、かわいい女の子が入ってきたので、俺は、少し、ほっとしていた。

まともそうな人も来てるんだ。

肩までの長さで髪を揃えた、なかなかの美少女だった。

少し、肉感的なところが、また、いい感じだった。

兄貴が、言った。

「お名前は?」

「はい」

少女は、もじもじして言った。

「桜ヶ丘 雅、です。16才です」

「へえ、同い年なんだ」

俺は、ちょっと、ほっこりしていた。

兄貴は、きいた。

「なんで、君は、今回の募集に応募したんだ?」

「はい、それは」

少女が頬を赤らめて言った。

「世界征服して、世界中の豚野郎どもを従えて、あんなことや、こんなことをして、最終的には、酒池肉林したいからです」

「ええっ?」

俺は、思わず、きいた。

「何って?」

「酒池肉林、したいんです」

「意味、わかってるの?」

俺がきくのを無視して、兄貴が言った。

「そのいきや、よし!採用!」


こうして、この日、5人の反社会的な人々が悪の組織に採用された。

ちなみに、俺の意見は、ひとつも通ることは、なかった。

「俺が、いる意味がないじゃん!」

俺が、言うと、兄貴は、言った。

「いや、お前は、うちの看板スターだからね」

「誰が、看板スター、だよ!」

俺は、虚しさが止まらなかった。



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