第5話 改造人間サマーン~哀戦士変~
「それでは、第3回、悪の組織 アストロ団のスタッフミーティングを行いたいと思います」
「はい、拍手!」
メイド服姿の、雅が叫んで、拍手を強制するので、他の、悪の組織のスタッフたちは、やる気のない感じで、おざなりに拍手をした。
「ちょっと、サマーン!なんで、団長様の演説中なのに、拍手をしないのよ!」
雅が、俺を指差して言った。
俺は、500マイルぐらいひいて、黙って、兄貴を見ていた。
兄貴は、雅に、言った。
「いいんだよ、雅。彼は、我々などとは、違う。何しろ、正義の味方なのだから」
「はい、団長様がそうおっしゃるのなら、雅は、それで、かまいません」
「よし、いい子だ」
なんだ?
やっぱ、この二人、できてるのか?
俺は、二人を横目に見て、舌打ちをした。
面白くない。
まったく。
俺は、さっきの、店長とのやり取りを,思
い出していた。
「あ、佐山君、きみ、もうこなくていいから」
店長は、バイトの後の、俺を呼び出して言った。
「はい、お疲れ様でした」
「ええっ?」
俺は、慌てて言った。
「何でです?店長。先月、急に休んで、しばらく、無断欠勤したからですか?」
「何だ、わかってるじゃない」
若ハゲの店長は、にっとラバみたいに歯を剥き出して笑った。
「なら、文句ないでしょ?」
「文句、あるっつうの!」
俺が、突然、叫んでしまったのをきいて、めがねっ娘 川島さんがビクッと体をこわばらせて、怖いものでも見るような目をして俺を見つめていた。
兄貴が、俺に向かっていった。
「何、何か、意見があるなら、挙手して言いなさい、サマーン君」
「誰が、サマーン、だっつうの!」
俺は、言って立ち上がった。
兄貴が言った。
「おおっ!うちのヒーローは、やる気だよ!」
「さすがは、サマーン!ステキ!」
雅が、俺に、声援を送る。
俺は、立ち上がったまま、兄貴が俺の金で買ってきた、黒板に書き出された文字を読んだ。
親しまれ、愛される、ヒーロー像をめざして
「なんだ?」
俺の背筋を冷たいものが走った。
兄貴が、にこにこして、言った。
「いや、前回から、みんなで、話し合っていたんだ。インパクトがあって、人々から親しまれるヒーロー像はないかと」
「何?」
俺は、めちゃくちゃ嫌な予感中だった。
「悪の組織が、何で、そんなこと、話し合ってるんだよ」
「ああ」
兄貴が、言った。
「善と悪は、表裏一体。悪を引き立てるためには、より、強烈な正義の味方が必要なのだ」
「なんだよ、それ」
俺は、きいた。
兄貴は、答えた。
「前回のミーティングの時に出た意見をまとめて、雅君が用意してくれたコスチュームがあるから、ちょっと、試着してみようか、サマーン」
「いや」
俺は、断固として、言った。
「全力で、お断りする」
「お前に、拒否権は、ない。サマーン」
雅が、俺に向かってオモチャのピストルを向けて言った。
「さっさと、こっちに来い!この、豚野郎!」
「何が、豚野郎、だ!」
俺は、雅に歩みよった。
すると。
雅が、オモチャのピストルを俺に向かって撃った。
どっひゅん。
すごい、衝撃が俺をかすめて、飛んでいき、爆発がおきた。
俺が、振り向くと、ハイツの壁に大きな穴があいていた。
「な、何だよ、その、危険なものは!」
「武器に決まってだろうが!豚が!」
雅が、勝ち誇ったように、叫んだ。
「さっさと、こっちにこいやぁ!サマーン!」
「行ってください」
めがねっ娘が、俺に、言った。
「被害が、こっちにまで、広がらないうちに」
仕方なく、俺は、雅について別室へと向かった。
5分後。
「はい、できました」
何かを、やりきったような、スッキリした笑顔の雅と、俺は、再び、スタッフルームにやってきた。
俺の姿を見た、めがねっ娘が、涙目で悲鳴をあげた。
「ひぃぃぃ!へ、変態?」
「誰が、変態、だ!」
思わず、俺は、声をあらげた。
その時の、俺の姿は。
上半身は、ぴちぴちのトラ柄のタイツ。
下半身は、赤いビキニパンツ一枚。
そして、仮面で顔を隠し、頭部には、猫耳をつけていた。
さらに。
右手には、冷凍サンマ。
左手には、握り飯。
一瞬の静寂が辺りに漂う。
そして。
爆笑する、間と、安井。
失神寸前のめがねっ娘 川島さん。
「確かに、すごい、インパクトがありますよね」
田中君が、冷静に、意見を述べた。
俺は、怒りに震えながら、言った。
「何が、インパクト、だ」
「すばらしい!サマーン」
兄貴が、言った。
「この、今時の時代にはない、強烈なヒーロー像!そして、助けた人々に与えるおにぎりはどこぞのパン系ヒーローにも、通じるものがある!何より」
兄貴は、俺の右手の冷凍サンマを指して言った。
「その、右手の冷凍サンマブレードが、いいっ!」
「どこが、だよ!」
俺は、叫んだ。
「お前ら、みんなで、俺をバカにして面白がってるんだろう!」
「そんなわけ、ないでしょ」
めがねっ娘が、言った。
「ものすごく、みんなで、熱心に、話し合ったんですよ」
「そうだ」
でぶ、安井が言った。
「特に、今は、癒しブームだから、猫耳がきいてるだろ?」
「永遠のヒーロー、アンパ○マンを彷彿とさせるじゃないか」
間が、言った。
「自分は、いいと思います」
「よし、サマーンのコスチュームは、これで決定だ!じゃあ、今日のミーティングは、これで、終了とする。解散!」
兄貴は、そういうと、雅と手を取り合って、そそくさと、スタッフルームから姿を消した。
「お疲れっす」
間と、安井が、頭を下げて帰っていく。
めがねっ娘が、俺を見ないようにしながら、言った。
「お、お疲れ様です」
「ビキニ、気を付けた方がいいっすよ、はみちん」
田中君が、すれ違い様に言った。
「最近は、コンプライアンス、厳しいっすから」
「ええっ?」
俺は、両手で慌てて、前を隠した。
誰もいなくなった、スタッフルームで、俺は、一人、ヒーローの孤独を噛み締めていた。
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