第21話 改造人間サマーン~ダイエット変~

「本日は、ダイエットを議題にしたと思います」

丸々艶々の兄貴が言った。

俺も、賛成だった。

なぜなら、今朝、兄貴が2階の俺たちの部屋の床を踏み抜いたからだった。

兄貴の体重は、もはや、冗談の域を越えていた。

俺は、言った。

「運動すれば、いいじゃん。みんなで、ジョギングしようぜ」

「愚か者!」

兄貴が言った。

「あの、走るとかいう行為ほど、人類の行動の中で愚かなことはないのだ」

「はぁ?」

俺は、きいた。

「なら、どうするわけ?」

「はぁい!」

雅が、手を挙げたので、兄貴が言った。

「雅、奴に、本当に、いい意見というやつを教えてやるがいい」

「酒池肉林、しましょう!」

「酒池肉林、か」

兄貴が目を細める。

「いいな、ロマンがある」

「結局、食ってりゃ、太るんじゃね?」

俺は、言った。

すると、間さんが言った。

「酒池肉林から、肉林のみを取り除けばいいんじゃないですか?」

「酒池、か」

兄貴は、言った。

「それは、それで、いいな」

「酒は、カロリーが高いぞ!」

俺は、言った。

「真面目に、体を動かせば、痩せる。これしかないんだぞ、兄さん」

「ちっ」

兄貴が、舌打ちをした。

「さすが、正義の味方、サマーン、言うことが正当だ」

「つまらん奴!」

文子が言った。

「学様の肉親とは、とても思えない。似てるのは、外見だけね」

「それだ!」

兄貴が、叫んだ。


兄貴は、それから3日3晩徹夜して、昼間に昼寝して、とある装置を開発した。

その名も、『タンデム装置』

「二人羽織の法則の応用だ。これで、俺が、サマーンの体を操って、運動することによって、そのシグナルが俺の体に伝わり、俺の体が痩せていくのだ」

「マジで?」

俺がきくと、兄貴が頷いた。

「さあ、サマーンよ、このヘルメットを被るがいい」

俺は、気が進まなかったが、そのフルフェイスのヘルメットを被った。

「何だ、これ?」

俺の体が、急に、自分でコントロールができなくなった。

「何か、体が勝手に動く!」

「あたりまえだ!」

兄貴が叫んだ。

「今、お前の体は、俺のコントロール下にあるのだ」

「ええっ?」

俺は、そこはかとなく、嫌な予感がしていた。


俺たちは、兄貴のコントロールのもと、俺の指示で、外へと出ていった。

今日は、俺は、所長と一緒に所長の知り合いの引っ越し業者の手伝いに行くことになっていた。

所長と合流した俺たちは、業者のトラックに乗って、現場に赴いた。

そこは、ビジネス街の一角にある、10階建てのビルの中のオフィスだった。

なんでも、2階から、最上階への引っ越しらしかった。

しかも、エレベーターが使用できないらしい。

「助かったよ、手が足りなくって、困ってたんだよ、トミィ」

人の良さそうな引っ越し業者の社長が、汗を拭きながら、言った。

トミィと呼ばれた所長が言った。

「いいってこと。困ったときは、お互い様じゃない」

そういうわけで、俺たちは、そのビルの2階のオフィスから、ずしりと重い段ボールの箱をざっとみて100箱、持っては登り、持っては、登りを繰り返した。

まあ。

俺は、そんなに大変でもなかった。

俺は、指示を出していただけだった。

後は、兄貴がやった。

兄貴は、ぶつぶつ言いながらも、こつこつと働いた。

そして。


夕方。

引っ越しが終わって、俺たちは、無事に家へと帰った。

「ああ、いい汗かいたなぁ、サマーン」

兄貴が、ヘルメットをはずしたとき、奥の兄貴の部屋から、この世のものとも思えない悲鳴がきこえた。

「ギィヤァアァアアアァァ!!」


「つまり、こういうことです」

文子が、俺に、説明した。

「普通の人間である学様が、超人サマーンの肉体を動かしていたわけで、その負担が、ダイレクトに、学様の体にきてしまい、そのために、全身が、酷い筋肉痛に襲われているのです」

「そうなんだ」

俺は、言った。

兄貴は、全身の痛みのために、しばらく、寝たきり状態だった。

だが。

ダイエットには、成功したらしい。


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