第5話

「イヤだぁ!喰われるぅ!死にたくなぁい!


「元魔王軍幹部とも有ろう御方が拘束された程度で情けない声で喚かないでください。鬱陶しいでございます」


結局あの場から逃げ出した我は数分後に追い付かれていた。そしてどういう原理か地中から飛び出してきた鎖に足を絡めとられて転倒してしまった所を拘束されたのだ。


俯せで倒れたまま拘束されたアイアンは、自分の死期を悟りつつも最後までみっともなく抗う。その姿に以前のような幹部の貫禄は微塵も感じられない。


「はぁ、何を勘違いされているのか知りませんが私はアイアン様の命を獲りに来たわけではありませんよ?」


そんな醜態を晒す元上司に呆れ果てているのかこめかみを抑えつつも命を狙っているわけではないと諭すように言う彼女


「えっ?でもさっき食い殺そうとしてなかった?」


「あれはアイアン様がわたくしの話に聞く耳を持たなかったものですから、少し手荒にやらせていただいただけです」


私は間違ったことをしたつもりはありませんと言いたいようだが、あれは確実に魂を獲りに来てただろ…


「ならどうして我をつけ狙う、魔王さまの差し金であろう?」


「いいえ、これは私の独断私の意思で行動しております。私しがついていなければ、あなた様のような役立たずの穀潰しは生きていくことすら困難なのです。だから常にお側で見守り救いの手を差し伸べてあげるためにこうして共に行こうとしているのです。お分かりですか?」


そう饒舌に我を罵倒しながら目的を話す彼女が嘘をついてるようには見えない、命を狙っているわけではないのは確かなことだろう。

それどころか此方を助けようとしている風なことを言っているようにも聞こえる。


(これは素直に話だけでも聞いておくべきか?)


「少々、いや十二分にバカにされているのは気に入らぬが、話し位は聞いてやろう」


この言い方をすると勘違いされそうだが『べ、別にあんたの為じゃないんだからね!』というやつでは断じてない。

あくまでも立場はこっちが上であることを示したいだけなのである。


「それがモノを頼む態度ですか?とい言いたいですが、アイアンゴーレム様のスッカラカンの頭ではそれが限界でしょう。仕方ありませんが話してあげましょう」


「いや、別にどうしてもと言う訳ではな」


「それではこれから先の事を話し合いましょう」


遮ってきたよこの女…

まぁいい、我とてそんな器の小さい男ではないからな。多少ペースを持っていかれたとしてもなんら問題なし。


「さぁ存分に我に助言をしてみるがよい」


「では早速これからどうするかについて話しますが、まずは近くの町へと参りましょう」


「そういえばずっとそんなことを言っていたな。だが我ら魔族が他種族の領地に入ればどうなるかなど見え透いておるだろう?」


魔族と他種族は言ってしまえば仲が悪い。人間、亜人間、魔物・魔族。誰がどのようにして決めたのか、生まれたときから種族は決まっていて生まれたときから魔族は人族を、人族は魔族を忌み嫌っている。

なぜそのようになったのかには諸説あるが、ある日魔族の中で最も欲望が強く力のあるものが魔王と名乗りを上げ、この世のすべてを手中に治めようにしたことが発端で魔族側、人族側の対立が生まれたとされている。

まぁつまり端的に何が言いたいかというと、我ら魔族が人族の領地に無断で近づけば命の奪い合いが始まるというわけだ。


「はい、確かに魔族であることが人間にバレればいざこざが起こるのは間違いないでしょう」


「ほれみたことか」


「お黙りください。ですが私とアイアンゴーレム様は幸運なことに一般的な人族となんら遜色ない姿形をしております」


言われてみればというか、以前から人に寄ってる姿をしているのは自覚していた。これを利用するのだという。


「ふむ、確かに人族に紛れることは可能かもしれん。だがそれをするには少々リスクが高くないか?それまでして人族の居住区に行く意味はなんだ」


「そうですね、確かにリスクはございます。ですがそれでも魔王さまの影に怯えながら生活するよりかはましかと」


うーん、確かに魔王とその他魔王軍に怯えるよりかはましかもしれんが、正直どっちもどっちな気がする。


「その上人族の町には仕事が多く、魔族であることさえ隠していればアイアン様がお求めの平穏な暮らしというものが可能というわけでございます」


「それは真か!そういうことは先に言ってくれんとなぁ!いやぁそういうことならすぐ行こう、人間の町へ!」


「イラッとしたでございます」


急に元気になってうざったいアイアンゴーレムに向かって辛辣な言葉で返すアイアンメイデン。しかし、今の我にそんな言葉は届かない。


「はぁ…本当に阿呆なお方でございますね。ですがこれもまた一興、どうなるか楽しみなものでございます」


多少の呆れを見せつつも、いつも愉快な反応を見せる男がこの先どうするのか楽しみで仕方ないのだ。

そんなこととは露知らず、まだ見ぬ平穏な生活にテンションが上がり、愉快な躍りを躍りながらズンズンと草木を分けて進んでいくアイアンゴーレム、しかしその動きが突然ピタリと止まる。

何があったのかとその後ろから覗き込んだアイアンメイデンの目に映ったのは…


「人間?いや違う、お前たち魔物か!!」


武器や防具で身を包んだ、冒険者集団と思われる人間の一行だった。

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