第4話
東の空から朝陽を感じる今日この頃。あったか~い等と感じる余裕もなく全力で木を分け茂みを掻き分け走る影が1つ…そう我だ。
「はっはっは!誰があんな怪しい話わざわざ聞くもんか!」
高笑いしながら誰に伝えるでもなく言葉を放つ。その間も勿論足を止めることはない。少しでも遠くあの場所から離れたいその一心で走り続けるのだ。
どうせあのまま話を鵜呑みにして、隙を見せたところをサクッとやるつもりだったのであろうことは優に予測できた。だからあの女が静かになったのを見計らって少し仮眠をとった後逃げ出したのだった。
~走りはじめて数分かはたまた数十分か、足の疲労が見え始めたあたりでようやく足を止める。
「ふぅ、これだけ離れれば問題ないか?」
当然返答はない。あの性格の悪い女の事だ、もし悟られず追いかけて来ていたとしたらこのあたりで顔を見せるはずだが……
「どうやら問題なく撒けたようだな」
「本当に甘いお考え、それでよく幹部を勤めてこれたものです。人間の言葉を借りるなら『片腹痛い』と言ったところでしょうか」
「何!?いったいどこから!?」
聞こえるはずのない声がどこからともなく聞こえる。慌てて周囲に視線を投げるがどこにもその姿は見えない。
(木の影か?それとも上か、いや奴は地中に姿を隠せる。下からか!)
「そこかぁ!!」
元部下とはいえ命を狙いくるのであれば、それは戦うべき敵になる。先手必勝、躊躇せずに自分の足元めがけ拳を叩きつけて攻撃を仕掛けた。
「残念賞、私はこちらですよ」
声は明らかにすぐそばから聞こえる。なのに姿は欠片すら見えない、一度ダメなら二度、二度ダメなら三度何もない地面を何度も何度も殴り付けた。しかし一発も拳が当たった感じがしない。
「お疲れ様です、この辺りで答え合わせといたしましょう」
何度も本気パンチを地面に打ったせいで肩で息をする我を嘲笑うかのようにアイアンメイデンが姿を表す……我の身体から。
「正解はアイアンゴーレム様の
驚きのあまりに声が出ない。どういう事だ、必死に走って逃げたつもりが走っている間もずっと一緒にいたということか?だがこ奴が潜れるのは地面だけだったはず…
「どうやって、というお顔をされてますね。表情は殆どありませんが」
「あ、あぁ」
こちらの考えなどお見通しなのだろう、不敵に嗤った…ような気がしなくもない表情をしたかと思うと指を一本口元に持っていき一言。
「秘密でございます」
そのしぐさと言動にドキッ、とするわけもなくイラッとしたアイアンは再び殴りかかった。拳は真っ直ぐにアイアン・メイデンを捉えたかのように見えたが、実際は違う。彼女の腹部がガバッと巨大な口のように開き、逆にこちらの腕を捕らえようとしていたのだ。
「ウゴッ!?」
思いもよらない行動に驚愕しつつも、寸でのところで腕を止め、アイアン・メイデンの補食行動から逃れる。体の頑丈さには自信があるものの、それを知って尚真っ向から補食しに来たということは恐らく罠。まさかこの装甲すらも無効化できるのか?
(もしかして幹部だった我より強い?)
「…シィ」
なんだかんだと相対しているうちにそんな思いが生まれてくる。誰にも見つかることのない隠密行動ができる上に、スーパーウルトラ頑丈と自負している装甲を無力化できるほどの力も持っているときた、そう思うのも仕方のないことだろう。
「オイシイ」
「ん?何だって?」
どうやってこの場を切り抜けようか。そんなことを考えていると何やら奴さんの様子がおかしいことに気づく。両手を頬にあてなにやらぶつぶつと呟いているのだ。
今の今まであんな状態になっている彼女を見たことがなかった故に得たいの知れない恐怖が精神をかけまわるのがわかる。
「美味しい~♪」
俯いていた顔を上げたかと思うと、見たこともない蕩けたような表情でそう言った。これまでの抑揚のない声ではなく、心の底から愉快だと言わんばかりの甘ったるい声。
一瞬本当にあのアイアン・メイデンなのかと思ったが紛れもなく目の前の彼女から発せられている。
「美味しい!美味しい!美味しい!」
うっとりとした表情で美味しいと連呼する彼女に覚える感情はただ1つ
(こいつはヤバい)
それにつきる。腕どころか指一本くれてやったつもりはない、というかそれ以前に我の体は形こそ人形をとっているが、実際は鋼鉄の欠片と魔力の集合体。食べて美味しい部位なんてあるはずがない。しいて美味しいかもしれないのはコアの部分ぐらいだ。いったい何がそんなに美味しいのか皆目検討がつかない。
「ふふっ、そんなに怯えないでください。興奮してしまいます」
「いやあああああああ!!」
口調こそもとに戻っているものの、明らかに捕食者の目をしているアイアン・メイデンへの恐怖が限界へと達し、なりふり構わず背を向けて逃げ出す。
「少し脅かしすぎたでしょうか?とはいえ殺気ばかり向けてくるものですから仕方ないですよね。何にせよ捕まえないとお話すら出来ません」
そう一人呟くとまた地面にへと姿を消したのだった。
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