第3話

「はっはぁ!自由じゃーい!」


魔王軍を抜けて早くも1週間、最初はどうなる事かと思ったが幹部という重荷からも解放されてなんだかんだ不自由のない生活ができている。あの日以来魔王様や魔王軍からの接触もないのが少し不気味ではあるものの、何事も起こらないのであればそれに越したことはない。


「しかし、いつまでもその日暮らしの生活が続けられるとも思えん。なにより住む場所の確保と食料の調達は急務だな」


魔物なのにそんな人間と同じような生活をするのかと疑問に思うかもしれないが、魔物も人間も体躯が違うだけで根本的なところは何も変わらない。生命を維持するためには食事をとらないといけないし、汚いところで寝泊まりするよりは小綺麗な建物で身を休めたいもの。


「うーむ、どうしたものか」


「でしたら町へと繰り出し仕事を探してみてはいかがでしょう?」


「うぉあ!?」


日はとうに沈み辺りはまっ暗闇、いつ誰に襲われるかわかったものではない状況のため周囲の警戒を疎かにしていたわけではなかっというのに、どうやってか突然の目の前に現れた人物に驚きを隠せなかった。


「ふふっ、存外可愛い声をお出しになるのですね”アイアンゴーレム様”?」


「お、お前はアイアンメイデンの・・・・」


いつ何時も不愛想で表情一つ変えない三白眼の女。幹部としてダンジョンを管理していた時も事務的で、時折表情を見せたと思えば見下したような視線で若干口角を上げる程度のもの。


(正直苦手なんだよなぁ)


「はい、ご存じの通り”元”魔王軍所属アイアン・メイデンでございます」


嫌に元の部分を強調してくるアイアンメイデン、表面上怒っているようには見えないが確実に嫌味をぶつけてきてるんだよな。もしかしてこいつ鬱憤を晴らすためだけに我の前に突如姿を現したの?闇深いし、できれば関わりたくないんだけど満足したらどっか行ってくれんかなと心の中で思う。


「それでは互いに認識も出来た所で先ほどの件について話を進めたいのですがよろしいですか?元守護者のダンジョン幹部様」


「ねぇちょっとランクダウンしたよね、我の呼び方」


「はい?何の事か解りかねます、それと私の問いに対して回答がまだですよ。敵前逃亡無責任鶏野郎様アイアンゴーレム様


「絶対わざと言ってるだろそれ!?もうランクダウン所じゃなくてルビ無かったら誰かすら分らんからな!」


兜の隙間からモノアイを光らせながらやや興奮気味に目の前の女に抗議する。


「一応言っとくが我は幹部だったんだぞ?上司ぞ?」


「”元”幹部・元上司ですよね?」


うがあああああ!!何なんだこの女は!

いかん、このまま話を続けても無駄にこっちが疲れるだけだ。というか律儀にこの女の相手をする必要もない。相当鬱憤がたまっているようだからまだ怒りをぶつけたりないだろうが、もう知らんさっさととんずらしてやろう。


「お待ちくださいアイアン様、どちらに行かれるつもりですか?」


「ぐぇ!?」


無視して横を通り過ぎようとしたところ、思い切り肩をつかまれ急停止させられた結果蛙が踏まれたような声を出しながら体勢を崩してしまった。そしてこちらの眼前へと表情のない顔で覗き込むのは止めてほしい。恐怖を覚えるから。


「そ、その…できれば解放してもらえないだろうか?」


「解放したとてどこか行く当てがありますか?また馬鹿みたいに何日も彷徨うおつもりですか?」


ところどころ棘のある言い方してくるのはなんなのだろうか。


「そういえば出会ったときに街へ出るとかどうとか言っていたな」


「はぁ、ようやくそこへたどり着きましたねと褒めてあげましょう」


何?いちいち我を罵倒しないと話し進められないのこの人。若干のやり辛さを感じつつもメイデンの話に興味がないわけではない。我だって好きで野生に生きているわけではないのだ。仕事の話があるのなら聞いておくに越したことはない。


「それでその話を詳しく聞いてもいいか?」


「はい、と言いたいところですがここ数日愚者のお守りで疲労がピークなので本日は就寝させていただきます。それでは」


「えっ?ちょ、おい!」


彼女はそれだけ言い残すとこちらの制止も聞かずに地中へと溶けるように姿を消してしまった。

結局のところさんざん罵倒されただけで肝心なことは聞けずじまい。どっと疲れただけに終わったのだった。ていうかさりげなく愚者って我の事だよな、本当に最後の最後まで嫌味を欠かさん奴だいつか痛い目にあってしまえ。


そう心の底から思うアイアンゴーレムだった。


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