第2話

「ちょちょちょ!?ちょっと待ってくださいよアイアンゴーレム様!」


「待たん!我は一秒でも早くこの場を去らねばならんのだ!」


冒険者等が魔王領であるダンジョンを攻め落としに来るのは百歩譲って仕事だから全力で対応しようと思ったが、この状況で魔王直々の呼び出しだと?これ絶対に魔王城に戻った瞬間に殺られる。だって魔王軍に敵対する奴らを救ってたんだもの。


魔王軍に入ったのもただただ待遇がよかったそれだけ。人間側との抗争がある以上命の保証こそなかったものの、そんなもの魔物として生まれたからには避けられぬ定め。なら魔王軍に身を置くだけで衣食住を提供してもらえるのなら誰だってそうするだろうに。

長ったらしくうだうだと建前を並べているが、結論としていえることは一つ。


「作戦:いのち大事に」


「それを使えるのは勇者側だけですよ!!」


「そうだった、というか我が部下意外とノリいいな」


「何年もあなたの下で働いてたら嫌でもこうなりますよ」


「ふむ、我には勿体ない良い部下を持ったものだな」


「そう思うなら魔王軍辞めるとか言わないでくださいよ、アイアンゴーレム様がいなければ我々は路頭に迷った挙句に皆殺しにされます!」


うーん、確かにロックアイの言う事も分らんでもない。魔王軍に対して恩義を感じることはないが、守護者のダンジョンで我の下で働いてくれていた者には多少なりとも情が芽生えるというものだ。そんな者たちをただ単に見捨てるのも寝覚めが悪いし、最後くらい幹部として助力くらいしてやりたい。


「わかった」


「考え直してくれましたか!」


「いや、魔王軍は辞める」


どうしてですかぁぁ!?と大きな眼に大量の涙を浮かべながら泣き喚く忠実な部下を慰めながらも言葉を続ける


「魔王軍は抜けるがお前たちをみすみす捨て行くわけではないから安心しろ」


「グズッ…本当ですか?」


「あぁ、我とて幹部の端くれ大事な部下の新たな門出くらいサポートしてやる」


「だから一度このダンジョンの者たちの意思を知りたい、全員の招集を頼めるか?」


ロックアイに問うと「わかりました」と涙を拭ってすぐさま走り去っていった。このダンジョンは規模も小さいため、全戦力を合わせても数百程度の魔物しかいない。全員が集まるのに数十分とかからないだろう。


「はぁ…これからどうしよ?」



――――――――――――――――


「アイアンゴーレム様、仰せつかった通りにダンジョン内の魔物全員集まりました」


「うむ、ロックアイご苦労」


「さて、単刀直入に聞く!このダンジョンに残って冒険者集団と戦うか、それとも魔王軍を抜けるか、だ!」


アイアンが大仰な身振りと共に集まった魔物たちへと告げると、先ほどまで静かにしていた魔物たちが一斉にざわつき始める。当然といえば当然だろう、突然生活を失うか命を失うかの二択を迫られているようなものだからな。


(戸惑うのも無理はない、か)


「だが安心してほしい!お前たちがどのような選択しようと多少の安全は保障してやる!」


「あ、安全の保障って言ったって何をしくれるというんですか!」


安全の保障という言葉に魔物の中の一人が疑問をぶつける。それに対してアイアンゴーレムは深くうなずき一言「宝物庫よ」と言葉を紡いだ。するとその言葉と共に目の前に漆黒の異空間が出現、手慣れたように腕を入れ何かをつかんで取り出した。


「こいつをお前たちにくれてやる」


アイアンゴーレムが取り出したものは漆黒の石、それを見た配下たちは口々に困惑の言葉を口に出すがそれも理解していたため、すぐに石の説明に入る。


「こいつは我が纏う外殻の欠片・・・に少し手を加えたマジックアイテム。この欠片が壊れぬ限り欠片の所持者をいかなる攻撃からも守ってくれる優れものだ」


「壊れぬ限りとはどの程度の攻撃なら耐えうるのでしょうか?」


他の魔物たちとは違いアイアンゴーレムの隣で話を聞いていたロックアイがおずおずと問いかける。その不安ももっともだろう、攻撃から守ってくれますよーなどと言葉で言ったところでそれではただのお守りと思われる。なのでしっかりとこの自身の体の一部でもある欠片の効力を証明しなくてはならない


「そうだな、よしそこのゴブリンこっちへ来てくれ」


「お、俺ですかい!?」


アイアンに指名されたゴブリンは顔面いっぱいに恐怖を貼り付け、足をがくがくと震わせながらもゆっくりとアイアンゴーレムの下へとやってくる。そんなゴブリンには申し訳ないと思いながらも漆黒の欠片を手渡す。


「い、一体どうするつもりですかアイアンゴーレム様?」


「大丈夫、大丈夫。怖くないよ?我を信じてくれたら痛い思いはさせぬからね?」


どう見ても大丈夫じゃなさそうな自分の立ち位置、ゴブリンの恐怖は一層強くなるばかりだが欠片の有用性の証明をするために心を鬼にする。


「見ろ配下たちよ!これが我の欠片、お前たちを守護する力だ!!」


思い切り拳を引き力を籠める。その拳を体を捻りながら勢いに乗せ目を瞑って恐怖に耐えるゴブリンに向かって振りぬいた。その場にいたすべての者が無残なゴブリンの死を覚悟する、しかし実際はガギンという金属同しがぶつかり合う音がしただけでゴブリンの死は愚か血液1つ飛び散ることはなかったのだった。


「あ、あれ?生きてる、生きてますよアイアンゴーレム様!」


「当然だ、我の強固な装甲は数センチの欠片であろうと絶大な効果を持っているのだからな。それで欠片は壊れたか?」


そう問うとゴブリンははっとなって握っていた手のひらを開く。するとそこにはアイアンに殴られる前と変わらない黒き欠片が握られたままあった。


「壊れて、無いです」


「ふむ、我の全力パンチでもこの通りだ。もちろん今のでこの欠片の耐久力はかなり減ってしまったと思うが、並みのダメージなら数百回身に受けようが壊れることはない」


「さぁ選択の時だ!逃げるも戦うもお前たちの自由!これより先はフリーの魔物としてより良い生を謳歌できる事を祈ってやるしかできんが、今まで世話になった!またどこかで会おう!」


集まった魔物たちに漆黒の欠片を渡し終えたアイアンは自分の都合で配下たちに苦を押し付けてしまったことを若干後悔したが、なんだかんだ命の危機から解放されたという安堵感から軽い足取りでダンジョンを後にしたのだった。

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