我、魔王軍幹部。魔王様に召集をかけられたけど怖いので逃げることにする。(仮)
森THE森AG
第1話
ガシャリガシャリ、重厚感のある金属がこすれる音が周囲に響く。
「ど、どうかされましたかアイアン様?」
少しくすんだ色をした漆黒の鎧を纏い、落ち着かない様子で同じ場所を行ったり来たりしている鎧男、種族名をアイアン・ゴーレム。こう見えて魔王軍幹部だ。
「ロックアイよ、聞いてくれるか?」
「え、えぇ。それで一体どうなされたのですか?」
そんな落ち着きのない幹部アイアンとは打って変わってただひたすらに困惑の表情を見せるのが、岩石に筋肉質な両手足をはやした一つ目の魔物。種族名をロックアイ。
「・・・・我、魔王軍抜けようと思う」
「・・・・は?はあああああああああああああああああああい!?」
ー時は1時間ほど遡り、アイアンゴーレムがいつものようにダンジョンの様子を見て回っていた時だった。
「2階層の罠も別段問題なし、後は1階層の部下たちの様子と入り口の確認だけだな」
我はアイアンゴーレム、見てくれはフルプレートアーマーを身に纏った大柄な人間に見えるらしいが、これでも種族はアイアンゴーレム。立派な魔物でありこの【守護者のダンジョン】の管理を魔王様から一任されている魔王軍幹部の一人でもある。
・・・・まぁ管理といってもこのダンジョンに来るのは初級の冒険者や野生動物、はぐれの魔物程度なので数十の部下に適当に警戒させていればどうとでもなるので正直なところ幹部なんてたいそうな肩書きを持てど、やっている事なんてこうやってダンジョンに設置されている罠の点検をするか部下たちの健康状態を管理することくらいなものだ。
「・・・・はぁ、魔王軍の侵攻に乗り気じゃないからってこんなことになるとはなぁ」
何を隠そうこの男、魔王軍の最終目標である全世界統一になど微塵も興味がなかった。
ならなぜ魔王軍に所属しているのか?それは至極簡単なこと生活のためだった。
「そう、生活のためだ!!」
「「!?」」
突然自分たちの上司が大きな声で意味不明なことを口走り驚愕する周囲の魔物たちだったが、すぐに元の様子へと戻る。こんな光景に違和感を感じるかもしれない、しかしここではこれが普通、このダンジョンの日常。
「アイアンゴーレム様、今お時間よろしいですか?」
「ん?どうしたアイアンメイデン」
「先ほど少し気になる情報を耳にしまして・・・」
アイアンが周囲の視線を一点に集めている間に、音もなく地中から姿を現し事務的に報告を始める女性。
どことなく近寄りがたい雰囲気を醸し出す彼女の種族はアイアン・メイデンである。膝下までしっかりと覆ったメイド服を着用し、腰まで伸ばしたストレートな栗色の髪も相まって彼女を知らない誰かが見たらただの人間と見間違えるだろう。だが魔物だ。
「何!?このダンジョンに挑んだ冒険者の多くがダンジョン入り口に生きたまま返されているという事を気味悪く思った近隣の村町から、冒険者を募って連合を組み近いうちにこのダンジョンに攻め入って来るだとぉ!?」
「見事なまでの棒読み解説ありがとうございました。ついでに加えるとその中に勇者一行もいるとかいないとか」
「と、いうわけなのですがどう致しましょうか?」
「どう致しましょうか?」っていうレベルじゃない話を突然聞かされ「なるほどでは・・・」とそうおいそれ打開策が見つかる訳もなく一瞬にして頭が真っ白になる。戦いに慣れていない冒険者がある程度束になって挑んできても何とでもなるとは思うが、そこに多少なりとも腕が立つ冒険者が混じるとなると話は別。
ていうかこういう危険視されて強引に攻め入られるのを恐れていたからこそ、できる限り人間を殺さずに帰してたというのに、それが逆に人間たちの不安をあおる結果になってしまっていたのか。
「それにしても余裕そうだな、アイアンメイデン」
「まぁ、私にはそんなに関係のないことですから」
くっそ、なんかそんな気がしたよこの野郎。
こんな緊急事態にも関わらずアイアンメイデンは何時ものように表情一つ変えず、いや少しだけ口角を上げ冷ややかな視線を向けながら言う。おそらく本当にこのダンジョンが落とされるようなら我を見限って逃げるつもりでいるのだろう。
魔王軍、というより魔物というものは元より欲望が深くそして欲望に忠実なのだ。だからこそ自分に利がある事を中心に動くし利が無いとわかれば裏切りも辞さない者ばかりといいうわけだ。
「まぁいい、我は一度奥に戻るが先の話を聞いていた者達に告ぐ。逃げるも戦うも好きにするといい、だが命の保証はせんからな!恨むなら魔王様を恨むことだ!」
そう言い放ち踵返した後ろからは「幹部の癖に」「チキンだな」「中身はスカスカ」などとありもしない野次が聞こえてくる。しかしその中で1人だけ中傷以外の言葉を放つものがいた。
「アイアンゴーレム様!魔王様の遣いから伝令!」
「・・・・何だ?」
相当急いできたのだろうか肩で息をする緑色をした
「『守護者のダンジョン幹部に告ぐ、至急魔王城に戻れ』…とのことです!」
長い沈黙。先ほどまでアイアンを揶揄していた者達さえも何かを察してその口を閉じる。人間側がこれまでアイアンがしてきたことに違和感を覚えたという事は、それすなわち魔王にもアイアンの愚行が知られている可能性があるという事。
「・・・・・・・・・・部屋に戻る」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます