第12話
「まっ、という感じで今あの街は今までにないくらい警戒態勢に入っちゃってるから二人ともあのまま入ろうとしてたら99.9%拘束されるか、戦争になってたよ」
街の様子からしても彼女が嘘を言っているというわけでないのは確実。
となるとどうしたものか、人族に馴染むことは無理だったからと魔王軍に戻れるわけでもない。これは実質詰みというやつでは?そう思うアイアンなのである。
「しかし困った。これからどうしたものか」
「残念ですが我々は正体がバレてはいけない身でございます。警戒の薄い他の街へと行くのがよいかと」
「・・・・そうだな」
とはいっても周辺に点在する集落や小さい町もスタンドードと同じような状態である可能性が非常に高い。つまりここら一体の地域からは離れた街を目指す必要があるという事になる。非常に面倒だ。
そして何よりも問題なのがダンジョンからあまり外に出ていなかった我々は周辺地理にまったくもって聡くないという事、一体全体どちらに向かえば次の街があるかすら分かっていないのだ。
「なぁノイム、この街と同等の規模の街に心当たりはないか?」
「?そうだね~、ここからかなり遠くなるんだけど北へとずっと行くとポロッサっていう街があったはずだよ~」
「ふむポロッサか・・・・ありがとうこれで次の目的地が決まった」
アイアンの質問に不思議そうな顔をしながらも答えてくれるノイム。だが彼女の口ぶりからしてかなりの距離があるようなので、道中をどうするかだけは今から考えておかなければならなさそうだ。
「まさかポロッサまで行くつもり?」
「うむ、スタンドード周辺がこの状態では仕方あるまい」
「魔王軍幹部様がそこまでして人族の街に固執する必要あるかな~?———もしも人間たちにちょっかいをかけるようならあたいも黙ってられないけど」
少しばかりの殺気を含んだ視線をこちらに向けそう言う彼女。
先ほど次の街を訪ねた時もそうだったが、どうにもノイムは我々がどういう目的で人族の居住地を訪れているのか分かっていないようだ。アイアンメイデンが意図的に隠しているのか、それともただ詳しく伝えていなかっただけか。どっちにしろ敵と成り得る相手でもないので状況を話した方が話も進むか。
「ん?こ奴から聞いておらんのか、我はもう魔王軍幹部ではないぞ」
「・・・・はぇ?メーちゃんこの人何を言ってるの?」
「この方はときたま妄言を吐くから気にしなくていいわ」
「おいこら妄言とはなんだ」
真顔でこういう事を平然と言ってのけるがためにノイムが真に受けて可哀想なものを見る目でこちらに視線を向けてくる。
おいやめないか。我をそんな目で見るんじゃない。
「ジョークでございます。アイアン様は本当に魔王軍を抜けられました。そして現在私と共に新生活を始める場所を探している途中でございます」
少し引っかかる言い方ながらも訂正するメイデン。ノイムは冗談だと聞いてもなお困惑した表情をしているが、恐らく幹部をやめたという事が信じられないといったことなのだろう。
「大方アイアンメイデンが言った通りだ。魔王軍を裏切った手前魔族領に戻る事も出来ぬからな、それなら人族との共生をと思ったわけだ」
「なるほどそういう理由があったんだな~、メーちゃんからは街に行くからとしか聞いてなかったからびっくりしたよ」
アイアンメイデンも特段言う必要がないと判断して言わなかったのだろうか?もしかすると普段の態度からしてありえないと思うが我の事を気遣ってくれたのかもしれない。
「というわけで世話になったな。目的地も決まったことだし早速向かう事にする」
何にせよ話は分かった。現在のスタンドードでは生活が厳しそうなので次の目的地は北の街ポロッサ。重たい腰を上げノイムへの挨拶もそこそこに家の出口へと向かう。
「ちょっと待ちな~」
アイアンにとっては少し小さく感じるドアノブに手をかけたところでノイムから静止の声が聞こえる。
「どうした?言い忘れでもあったか」
「あの、さ・・・・今日は泊っていかないかい?」
何故か少し戸惑った様子を見せながらそう持ち掛ける彼女。魔王軍とは関係ないとはいえ身を預けてもよいものか、しかし日の暮れも近くここ最近は野宿続きもあってその提案は素直にうれしかった。ノイムの提案を了承すると何故かアイアンメイデンの纏う空気が変わった気がしたが多分気のせいだろう。
「・・・・2人きりの時間」
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