第11話
いつもと変わらない日常。
スタンドードの街は今日も多くの人々で賑わっている。
人間、ドワーフ、エルフ、リザードマン等多くの街から多くの種族がこの街に集まる。彼らの目的も様々で物資の調達のためや旅の休憩地点としての宿探し、仕事を求めてくるものも少なくない。
中でも最も多いのが駆け出し冒険者として街のギルドを訪れる人たち、何といってもここは平和の街とも呼ばれており冒険者になりたての者が研鑽を積むにはうってつけなのだ。
しかしそんな和やかな雰囲気に包まれていた街に突如緊張感が張り詰める。
「お、おいあれ見てみろよ」
「あれってなん・・・なっ!?ライトニング・ドラゴン!?」
冒険者たちが口々に驚きの声を上げる。それも仕方のないことで街の中を全長3mを超えるドラゴン種が引き摺られてきたのだった。今までこの場所にドラゴンのような巨大種が運び込まれたことは一度もない。
それはなぜか?この街に集まるのが駆け出し冒険者ばかりだからというのもあるが、それ以前にこの辺り一帯はドラゴン種の生息域ではないのだ。それ故にドラゴンの鱗や牙など素材などが出回ることはあっても、解体もされていない手つかずの状態で運び込まれることはなかった。
そのドラゴンを運んできたのはフードを深くかぶった怪しげな人物数人。しかし街の人々は皆ライトニング・ドラゴンに夢中でどのような人物がその巨大な獲物を狩ってきたかなどそこまで気に留めることがない。
・・・・誰か一人でもこの怪しげな集団に疑惑の目を向けていれば、と思うが時すでに遅し。
「「「「
怪しげな集団が街の中央で一斉に両腕をドラゴンに掲げ、呪文を言葉にする。その呪文は魔力移行、術者自らが内包している魔力を対象物に分け与えるというもの。
大抵の場合はマナドリンクを飲むか一定期間経てば体内の魔力量はある程度回復するため、一般的に使用されることはあまりない呪文。しかしその効果範囲は人のみではなく動植物にも有効であるため使い方によっては応用が利く呪文の一つでもある。
「・・・グぅ?グラアアアアアアアアアア!!」
そう、魔力枯渇によって瀕死の状態であったライトニング・ドラゴンを復活させるという事も出来てしまうのだ。
魔力が戻ったことによって元気を取り戻したライトニング・ドラゴン、知性を持たないが故になぜ突然魔力が満ち溢れたかも理解しない。だが力を取り戻した以上本能のままにドラゴンは行動をする。身体にバチバチと電気を纏わせ、恐ろしい咆哮と共に周囲一帯へ雷を放つ。
「ひ、ひぃ!?ドラゴンを蘇らせやがった!!」
「街中でこんなことをするなんて正気じゃないわ!?」
「騎士団を!早く騎士団を呼べ!!」
「魔族だ!!魔族の宣戦布告に違いない!」
木造の家屋からは炎が上がり、建造物は音を立てて崩れ始める。一瞬にして街はパニックに陥った。人々は我先にとその場から逃げ出し助けを乞う。このような惨事を起こした当人、ローブを纏った一団は魔力移行で内包魔力を使い果たし全員その場に倒れ伏している。
「グラアアアアアアアアアア!!」
「・・・・うるさいょー」
ライトニング・ドラゴンが建物の次に狙ったのは逃げ惑う人々。大きく開いた口に魔力を溜め、それを大勢の人族に向かい吐き出した。しかしその一撃はたった一人の小さい者によっていとも容易く受け止められてしまう。
「ホント面倒起こすならあたいのいない所にしてほしいな~ってね~」
けだるげな瞳でドラゴンの方を見つめながら、ドラゴンが放った強大なエネルギー弾の魔力の流れをコントロール凝縮し手のひらサイズの球体にした。そしてその球体を振りかぶってドラゴンへ向かって投げ返す。
「―ッ!?」
球体はものすごいスピードでドラゴンへと着弾すると、轟音と共にその姿を飲み込んでしまうほどの爆発を起こした。
「・・・・うぇ、ちょっと魔力コントロールがあまかったかぁ~」
爆発を直に受けたライトニングドラゴンは見るも無残な姿で息絶えてしまっており、それを見た少女はあちこちに癖の付いた髪を触りながらそう呟き面倒になる前にとそそくさとその場を後にしたのだった。
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