第10話

ノイムに連れられてやってきたのはスタンドードの街周辺に点在している集落。その中でも一際大きい木造でできた一戸建ての家へと案内される。中は一見質素で飾り気のないように見えるが、部屋のいたるところに正体不明の液体が入ったフラスコや形容し難い何かが置かれ異様な雰囲気を醸し出している。


・・・・すっごい帰りたい


「相変わらず薄気味悪い部屋で過ごしているのね」


どうやら流石の彼女もこの部屋に不気味さを感じているようだ。しかし彼女の言葉にノイムは不満げな顔を見せて苦言を呈す。


「・・・・メーちゃんだけには言われたくないかなぁ」


「何か言いましたか?」


だがその言葉は小さく当の本人には聞こえていないようだ。


「ん~ん、何も言ってないよ~。それよりあたいの作品たちを薄気味悪いとはひどい~」


これは~とよくわからないものを手に取り解説を始めようとするノイム、確かに多少興味はあるものの目的を見失ってしまっている。我らはノイムの成果物を見に来たわけではないのだ。


「すまないがその解説はまた今度聞かせてやってもらえないか?我々を連れてきた目的はそれらを紹介することではないのだろう?」


「あっそうだった。メーちゃん達も見たと思うけど、今スタンドードは街に入る前に身分を証明できるものの提示を強制しているんだ~」


そう言われてスタンドードの門前にやたらと人が多かったのを思い出す。あれはそういう理由があって混雑していたのか。しかし街に入るためだけなのにわざわざそういう事を行うとは人族の警戒心は相当高いとみえる。


「どういうこと?門前での検問など以前まではしていなかったはずです。それなのにどうしてまた」


「なに?常に行っているわけではないのか」


「はい、以前私が街へ出向いたときは検問などなく普通に通ることができましたので」


どうやら普段通りの光景というわけではないようです。我恥ずかしい。


となると街で何かがあった、もしくは何かが起ころうとしている。いずれにしろこれから街へ入ろうという我らにとってはよくない状況であることは確かだろう。


「・・・・それがねぇ、ちょいと言いにくいんだけど」


先ほどまでつらつらと話していたノイムが初めて言葉を詰まらせる。あの町で何かがあったことは間違いないようだ。しかし聞かない事には始まらない、彼女に話を続けるように促すと少しの間を開けて彼女は言った。


「平和の街に魔族が現れたんだ」

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