第9話
城門に近づくにつれ喧騒が大きくなる。それも当然のこと、ここスタンドードの街は通称【平和の街】と呼ばれるほどに魔族軍の侵攻がなく、その影響もあって諸外国との交易が安全にできる人間達が集まりやすい地域の一つなのだ。
まぁ近くにある魔族領の大元がアイアンゴーレムがボスのダンジョンだったからって言うのが大きいのだが、彼にその自覚はない。
「ここが確かスタンドードだったか、ずいぶん大きな街のようだ。こりゃ万が一にも正体を知られるわけにはいかんな」
「そうでございますね」
街の規模が多いという事は、それだけ正体がバレた時の情報が回る速さも早くなる。慎重になるに越したことはないだろう。少し前までアイアンゴーレムの外装に姿を隠していたアイアンメイデンもその姿を日の下に晒し彼の隣を歩いている。
「人の街とは賑やかなものでございますね」
「うむ、平和なのは良いことだ」
「しかし何やら門前が騒がしい様ですが、一体何かあったのでしょうか?」
言われてみれば街の入り口辺りで不自然な人だかりができているのが目に入る。何かトラブルが起こったのだろうかと思いつつも、ひとまずは状況を確認しなければ始まらないので人だかりに近づいていく二人。しかしその後ろから近づく一つの影があった
「ちょいと御待ちな~そこなお二人さん」
「二人とは我らの事か?」
「ザッツライトだにょーん」
突然声をかけてアイアンたちを引き留めたのは、あちこち髪がはねたボサボサ髪で何故か身の丈に合っていないぶかぶかの白衣を着た身長140センチ程の幼女だった。
どこか眠たげな瞳をこちらに向けながらトコトコと歩み寄ってくる。
「あら、誰かと思ったらノイムではありませんか」
「メーちゃんおひさ~、街に来るって言ってたから様子を見に来たけど正解だったみたいだね」
「む、お前たちは顔見知りなのか?」
どうやらアイアンメイデンとこのノイムという幼女は見知った顔のようだ。どっからどう見ても人間の幼子にしか見えなかったが、性悪女との知り合いという事はおそらくこの子も魔族という事になる。
(気を抜くわけにはいかないか)
「はい、彼女の名はノイム。私の友人であり人族の生活に溶け込んでいる珍しい魔族の一人です」
「人を珍獣みたいに言うのはナンセンス~、あたい以外にも結構いるのにさぁ」
アイアンメイデンの話からこの幼女が人族についての知識を与えていた人物だという事だとわかる。人族と共生しているらしいので魔王軍からの刺客というわけではなさそうなのが救いだ。
「会うのは初めてだなノイム、我は」
「あ~…君の事はメーちゃんからお腹いっぱいになるくらい聞いてるから今更いいよ」
「そ、そうか」
やはりというかなんというか、アイアン・メイデンの友人というだけあって癖の強いやつだったか。人の自己紹介を途中で遮るかね、と言いたいが我は大人の対応ができる立派な男だからな。わざわざこんな幼女に噛みつくなんてことはしない。
「それで女児よ、我らを引き留めた理由は何だ?こやつに用があるのなら我は席を外すが・・・」
「いや二人ともに用があるから、ちょっとついてきてもらえるかな~?」
できる事ならこの独特の感性を持っている二人に挟まれている時間を少しでも早く終わらせたかったのだが、そういうわけにもいかないようだ。
律儀にノイムについていく必要はないと思うのだが、アイアンメイデンの旧知の仲であり人族に精通しているという以上無碍にするわけにもいかない。気は進まないが彼女についていくことにしたのだった。
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