第8話

名前とは何なのか?

生みの親がつけたものであり、人間たちの間では親から子へ家族というものの証明として贈られるものだ。しかし魔族の中では誰かを特定するための名前というものがない種族が多い。スライム、ゴブリン、ドラゴンetc…

人族と近しい姿形をしている種族はその限りではないが殆どの魔物族は人族のように社会というものを形成していないため名前が必要になることがないというのが名前をつけない大きな要因だという。


「アイアン・メイデンよ、我らも人族の町に定住する以上人族に馴染む名前が必要だとは思わぬか」


「名前、でございますか?」


アイアンが歩みを進めながら現在アイアンゴーレムの鉄鎧へと姿を隠しているアイアン・メイデンへと話しかける。姿の見えない相手に話しかけるというのはいささか恥ずかしさを感じるが、彼女曰く「もし突然の襲撃にあった場合にこちらも不意を突いて動きやすい」とのこと。

・・・・つまり我は囮というわけだ、この女ぁ!


「確かに人族の間では名前を付けるのが一般的だと知人から聞いております。なのでその提案には私も賛同でございます」


「うむ、とはいえだ。我は名前というものの付け方がいまいちわからん。北にいるタートル・ドラゴンの一匹が名乗っている『《ブルーフレイム=タートルドラゴン》』みたいな感じのでよいのか?」


アイアンゴーレムの発言に今までの中でも最高記録級に長い溜息をつく彼女。そしてため息をつき終わってから彼の発言に訂正を入れる。


「馬鹿は休み休みに・・・っと休み休みに馬鹿してましたね」


「おい」


「アイアンゴーレム様、蒼炎の亀竜ブルーフレイム=タートルドラゴンというのは人間達が強力な魔物につける二つ名でありいわば称号みたいなものでございます。その亀は愚かにもその二つ名を気に入り名乗っているようですが、もしそのような名乗りをした暁にはもれなく大規模討伐依頼が出されることになるでしょう」


淡々と提案の愚かさを伝えてくるアイアンメイデン、それにしてもこやつの人族の生活情報は一体どこから収集しているのやら。情報を提供してくれる知り合いがいるようだが、本当に掴みどころのないやつだ。我のことも何かに利用するつもりなのかもしれんが・・・・まぁその時が来たらその時に何とかすればよいか。


アイアンゴーレム、彼は楽観的な男であった


「ではどうすればよいのだ」


「実際人族に名前を聞き参考にするのが手っ取り早く分かりやすいのですが、多少のリスクを背負うことになります」


確かに突然「名前を教えてくれ」と聞かれて正直に答えてくれるかは怪しいところ。その上不必要に警戒されて最悪の場合魔族だとバレる可能性も高まってしまう。


しかしそれ以外に人族の名前について知れる機会はない、人族に精通しているアイアン・メイデンの知人とやらを訪ねればリスクは侵さずに済むのだろうが、その知人が魔王軍を抜けた我に友好的とは限らない。それになによりこ奴に借りを作るようで嫌だ。


「仕方あるまい、名前については人族の街で情報を得てからそれっぽく名乗ることにしよう。それまでは互いに不用意に呼び合うことは控える。それでいいか?」


「仰せのままに」


「決まりだな、ではちょうど『スタンドード』の街も見えてきた事だし街に入ったらそういうことで頼むぞ」


ひたすらに薄暗かった大森林を抜け、燦燦とした太陽の日差しを身体中で受け止める。ちかっと一瞬日光の明るさに目がくらむが視界がはっきりすると、視界に飛び込んでくるのは石の壁で囲まれた人族が住まう街。【スタンドード】


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