第16話

「「待て―!」」


「待てと言われて待つ者もおらんだろうが!」


何もない平野をひた走るアイアンゴーレム、そしてその後ろから多くの人の声が聞こえてくる。その距離こそ空いているもの一度足を止めればすぐに詰められる程度のものだ。

どうにかこうにか追っ手を撒こうと幾度も試行するが、見ての通りここら一体は点々とした集落か、ある程度知れた街位しかない。それらを利用して撒くことができればいいが如何せん追われてる理由が理由だけに悪手になるのが目に見えている。


「せめて人の気配のない納屋でもあれば身を隠せるのだがなぁ」


そんな都合のいいことを考えながらも追っ手から逃げ続ける事数分、段々と建物も少なくなりますますどうしたものかと悩んでいると、他の建物とは雰囲気が違う明らかに寂れた教会が目についた。


「あそこならば問題あるまいか」


追っ手との距離がある程度離れているのを確認して我は古びた教会らしき建物へと入る。

中は未だ日中だというのにも拘らず薄暗くて当然人の気配はない。しかし何故か内装はどこか綺麗に整えられており、蜘蛛の巣や埃の被っている個所を探すのが難しいほどに手入れがされているように見受けられる。


「ふむ、主が留守なのは幸いだがあまり長居するわけにもいかぬようだな」


一先ず追っ手の人族たちが過ぎ去るまでは場所を借りさせてもらう事に決めたアイアンゴーレムはゆっくりと建物内を見て回る。礼拝に来る人が座るものなのか、その他の催しで使われるものなのか、少し朽ちている物もあるが木製の長椅子が中央の通路を挟んでいくつも並ぶ。

雰囲気に反してあまりにも整えられている内装も気になるところではあるものの、それ以上に不思議に思うのがこの教会には窓がない。建物自体が所々崩れて光が差し込んできてはいるものの、それら以外に外界から光を取り込む構造をしていなかったのだ。


「吸血鬼でも住んでおるのか、はたまた物好きな者が住んでいるのか・・・まぁどちらにしても廃屋というわけではないのは確かか」


呑気に教会内を見て回っていると建物のすぐ近くをいくつもの足音が通る。「確かにこちらに来ていたはずだが」「図体のわりに逃げ足の速いやつ」どうやらしっかりと撒くことには成功していたようだ。後はこの教会に入ってこないことを祈ることしかできないが、流石にこんな場所に隠れているとは思わないだろう。

思惑通り追っ手たちは寂れた教会に立ち入るようなことはせず、足音が遠ざかっていくのが聞こえる。これで一安心か、と安堵のため息を吐いた。


「・・・動かない方がいいよ」


だがどうやら一難去ってまたまた一難。

ここ数日はとことんついていないようで、いつの間にか背後にぴったりと張り付いていた何者かに首元へナイフ突き付けられていた。


(ナイフごときで傷つくほど我の身体は脆くはないのだが、ここは合わせるのがよいか)


もしこの教会の主だとするのなら手を出すわけにもいかない、不法侵入しているこっちが悪いのは明白なのである。


「あなたのようなヒトを招き入れた覚えはないカト」


やっぱり家主だったかぁ!

そういうことなら抵抗するわけにもいかないのだが、何とかして状況を打破する必要があるのも事実。ここは一先ず持ち前の話術で交渉をと口を開こうとしたところで頭部に重い衝撃が襲い掛かった。


「えぶっ」


突然のことに対応できず思い切り地面に頭をぶつけてしまい変な声が出る。しかしそのおかげで無理やりに抵抗することなく家主から距離を取れたのは幸い。頑丈さには自信があり不意は突かれたもののもちろん体は無傷、少しぐわんぐわんと揺れる頭を支えながら立ち上がり、恐らく殴りつけたであろう人物の居る方へと体を向けた。


「あはっ!まだ立ち上がるよお姉ちゃん!おじさんってば固いんダネ♪」


「あーまた先走る。少しは落ち着いた方がいいよ」


そこに立っていたのは修道服を身に纏ったシスターらしき人物が二人。片方は純白のもう片方は漆黒の、それぞれが持つ得物はハンマーとナイフ。仕方がなかったとはいえなんとも厄介そうな人物たちの家に入ってしまったものだとアイアンは人知れず後悔した。


「それで一体あなたは何者?」


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