第17話
ブオンと音が聞こえるほどの速さで、自らの身長と同等の大きさのあるハンマー振り回す純白のシスターらしき者。アイアンゴーレムはそれをすんでの所で後ろ飛びに躱し目の前に鋼鉄の壁を作り出す。
「待て!?まずを話しをだなぁ!」
「おじさんはきっと敵!潰すのに理由はそれだけで十分でしょ?」
「くっ、お主は野生動物か何かなのか!?」
ウォールの魔法で作り出す鋼鉄の壁は並大抵の衝撃では壊れない。いくら相手が相当な力で得物であるハンマーを殴りつけたとて数分の時間を稼ぐことくらいなら可能だろう。
「こんな薄壁一枚、一振りでぶっ壊しちゃうもんねー!・・・ってあり?」
アイアンの予想通り鉄壁は純白のシスターの強烈な一撃を受けても崩れることはなく、シスターもそれを不思議そうに見る。どうやら自分の破壊力に相当な自信があったようだ。
「うーん、じゃあもう少し魔力を籠めてぇ・・・そいや!」
純白のシスターを鉄壁で分断し安心したのもつかの間、急激に膨れ上がる魔力を肌に感じるアイアン。一体何事かと身構える。すると次の瞬間かなりの強度を誇る鉄壁がド派手な音とともにぶち抜かれてしまった。
まさか数メートル先の出口にたどり着くまでの時間すら保たせられないとは予想外が過ぎる。
「それじゃ鎧のおじさんも潰れちゃおっか!」
「流石にそういうわけにもいかん、リインフォウォール!」
リインフォウォール、壁を作り出す魔法であるウォールの上位魔法でありその強度は単純なウォールで作り出したものの数倍にもなる。その分一度で使う魔力量もかなりのものになるのだが、我には膨大な魔力があるため彼にとっては痛手の消費というわけではない。
「またおっきな壁ぇ・・・早く潰れちゃえばいいのに面倒くさいなぁ!」
ゴガン!アイアンゴーレムの作り出した鉄壁にまたも大きな穴が開く。
「な!?ただのウォールでは無いのだぞ!?」
「知らない知らない知らない知らないっ!!私たちを傷つけるものなんて全部全部潰れちゃえぇぇ!!」
巨大な壁を貫いてもなおシスターのハンマーが勢いを弱めることはなく、壁を張って多少の油断をしていたアイアンの胴体へと打ち込まれる。その衝撃は最初に頭部を殴られた時とは比べ物にならないくらいに強く、アイアンを軽々と壁まで吹き飛ばしてしまった。
「うぐぅ、痛いと感じるのはいつ以来か・・・コアまでは届いていないが左上半身の装甲の殆どを失ったか」
なぜ魔力で作った鉄の鎧を身に纏っている我が痛みなどを感じるのかはわが身ながらいささか疑問ではあるが、まぁいまはいいか。
壁にぶつかった衝撃で崩れ落ちてきた瓦礫を除けながらひとまず立ち上がる。
建物の崩落で舞い上がった土煙のおかげで彼女の視線を遮れているのは唯一の救いか、凶悪なハンマーを振り乱して暴れているであろう破壊音が未だに聞こえてくる。こちらを見つけるのにそう時間はかからないだろう、一秒でも早くこの場を去らなければならない。
「逃がすとおもってる?」
しかし逃げようとするアイアンに取り付く者がいた。そう漆黒の修道服を身に着けているナイフの方のシスターだ。アイアンの背後から忍び寄り、いとも容易く弱点である露出したコアにナイフを突きつける。
「勝手に家屋に浸入したことは悪かった。しかし我も追われの身どうしても身を隠す場所が必要であったのだ」
「・・・・追われている?さっきの人間共?」
絶体絶命の状況に変わりはないが、どうやらこっちの漆黒シスターは多少は話の通じそうな相手だった。純白ハンマーの方は利く耳すら持たなかったので、会話ができるだけでももしかしたら隙を作れるかもしれない。そう考え何とか黒シスターと交渉できないか思考を巡らせる。
「みぃつけたぁ」
だが折角見えた希望もすぐに打ち砕かれてしまう。白シスターがすぐにこちらの居場所を特定し、土煙からその姿を現してしまったのだ。さては黒シスターの方が居場所を教えたかとも思ったが、黒シスターの方は依然として訝しげにこちらを見ていただけなのでその線は薄いだろう。
「今度こそぶっ潰れちゃえええええ!!」
「馬鹿者!それではこやつも巻き込むぞ!?」
白シスターは周りが見えなくなるほど興奮しているのか、アイアンゴーレムのすぐそばでナイフを突きつけて拘束している黒シスターもろともハンマーで押しつぶそうとしている。黒シスターも異変に気付いたのか白に制止を呼びかける。
それでも彼女は止まらない、黒シスターもろとも押しつぶしてしまうつもりでハンマーを振る。そんな状況でもナイフを突きつけるのをやめない黒シスター、使命感からかはたまた動けなくなってしまっただけか・・・どちらにせよこのままでは巻き込まれてしまう。
「ちぃ!さっさと離れんか馬鹿者!」
助ける義理はないが、こ奴が死ねば確実にこの教会から逃げ出すこともかなわないだろう。アイアンはハンマーが自分達に当たる直前に黒シスターを突き飛ばす。
ズドンという轟音、飛散する黒い鉄片と共に今度こそアイアンゴーレムの姿は見えなくなってしまったのだった。
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