第18話

「はぁ、はぁ・・・消えちゃえ!消えちゃ、え・・・」


力任せに暴れまわったせいで体力が底を尽きたのか、ばたりと急に倒れこんでしまった白のシスター。


「シラスっ!?」


それを見た黒のシスターが素早く立ち上がりかけよる。


「無理し過ぎよ・・・貴方はただでさえ体が弱いんだから」


「————魔力枯渇か」


「え?」


倒れる仲間を抱えながら泣きそうな顔をする彼女の耳に確かに聞こえてきたその声、聞こえてきた方向に振り向き戸惑いの表情を見せた。その表情からは「信じられない」という思考がありありと見える。


「ま、まだ生きているの・・・・?」


「これでも、体の丈夫さ、には、自信があるのでな」


そうは言うものの、アイアンゴーレムの身体はボロボロと崩れておりコアを守るための鎧はもはや意味をなしていないどころか原形をとどめていない。今ならそこらのゴブリンや戦闘能力を持たない人間でも容易くとどめを刺すことができるだろう。


「・・・・貴方が来なければ妹はっ!」


先ほどまで目の前の鎧男が生きていたことに驚愕をし、恐怖に侵されていたがそれはすぐに怒りの感情へと変わる。妹が倒れたのはこの鎧男のせいなのだ、これ以上妹を傷つけないためにも殺さなければならない。

黒のシスターは一瞬姿を消したかと思うと、すぐにアイアンゴーレムの目の前へと音もなく姿をさらし、ナイフの切っ先を振りかざす。


「・・・・どうした、殺らんのか」


しかし振り上げたナイフがアイアンゴーレムのコアを貫くことはなかった。黒のシスターはナイフを持った手を震わせ、悔しそうな表情でこちらをにらみつけながら口をゆっくりと開く。


「知っているんでしょ。シラスが、妹が倒れた理由!」


「ふむ、わざわざ教えてやる義理はないのだがっ、てちょっと待て!教えないとは言っておらんだろうが!?」


「自分の置かれてる状況を理解してるの?あまり適当なことを言わない方がいいわよ」


ナイフをコアへと触れるほどに近づけ有無を言わせぬ力でアイアンゴーレムを圧倒するシスター。これ以上下手なことを話せば確実にシスターのナイフは大事なコアを貫くだろう。


「わかったわかった!話すからまずはその得物を下ろしてくれ!」


「信用できない、このままで話しなさい」


どうやら命の危機からは解放していただけないご様子。仕方がないのでだらだらと嫌な汗が流れるのを感じながらもシラスと呼ばれていた白のシスターの話をする。


「先に断っておくが飽くまでも可能性の話であることを頭に入れて話を聞いてくれ」


「・・・・わかったわ」


「おそらくだが貴様の妹?まぁそっちのが倒れた原因は魔力氾濫オーバーフローそしてさっきも言ったがその結果魔力が枯渇。意識を失ってしまったというわけだ」


アイアンがそう話すと黒のシスターは怪訝な表情で魔力氾濫について聞いてきた。確かに魔力氾濫という単語は、あまり使われることがなく少し聞きなれない単語なのかもしれない。


「よいか、人族も魔族も等しく内包している魔力には使用限界というものがある。身体機能を維持するために最低限必要な魔力を残しておく必要があるからだ」


「聞いたことはあるわ、でもそれならどうして妹は気を失ったの?使用限界以上に魔力を使うことはできないんでしょ?」


「いや必ずしもそうとは限らない。何事にも例外というものはあるのだ」


そこまで言うと一度一呼吸入れ、未だに目を覚まさない白いシスターの方に目を向ける。

それを聞いた黒のシスターはその言葉を聞いて表情を曇らせた。何故なら彼女にはいくつか思い当たる節があったからだ。

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