第6話
「お、お、お・・・おいっす!」
予期せぬ出来事の到来に対して素早く対応できるかどうかでその人の頭の回転スピードが大体わかると言われるが、どうやらアイアンにはその才が欠片もないようだ。見るからに警戒態勢に入っている冒険者たちに対して咄嗟に出た言葉が「おいっす」だったのだから。
『何が「おいっす」ですか、頭の悪そうな挨拶なんてしていないでさっさと疑いを晴らしてください。このままだと我々が魔族であることがバレてしまいます』
『そ、そう言われてもなぁ』
『仕方がありません、私がある程度何とかしますからアイアン様は私の邪魔をしない程度で話を合わせてくださいませ』
『よし任せた』
冒険者に聞こえない程度の小声で言葉のやり取りをする二人。その行動から更に怪しさが増しているんじゃないかと思われるが全くその通り、冒険者一行は既に臨戦態勢で下手な動きを見せればすぐさまに飛びかかってこんとする勢いだった。そのことを察してかアイアン・メイデンはアイアンゴーレムの影から一歩前に出ると、軽く頭を下げたのちに一つ咳ばらいをして口を開く
「突然の会合、それもこの様な魔物が多く住まう場所でとなると皆様が私共を警戒なさるのも当然かと…私たちも皆様と同じ目的でこの森に足を踏み入れただけで、魔物と間違われるのはいささか不本意でございます。」
「うむ。我らもあれだ、この森の生態調査の仕事をだ「お黙り下さい」・・・ハイ」
アイアン・メイデンが人間たちからそれっぽい言葉で信頼を得ようとしてくれているので、自分も先ほど言われた通りに話を合わせてくれという事を実行しようとしたらものすごい剣幕で黙るように言われてしまった。
・・・・いったい何が駄目だったのだろうか?
そんなことを一人考えていると、人間の集団の中でも一際強大な魔力を持ってるであろう凛とした女性、最初にこちらを魔物だと疑ってきた者が一歩近づいてくる。焦りを悟られるわけにはいかないので、表面上は平静を装っているが実際いつ攻撃されてもいいようにこちらも臨戦態勢を整える。
「なんだ君たちも冒険者だったんだ!ごめんね僕の早とちりだ!」
しかし目の前までやってきた女性は先ほどまでの親の仇を見るような眼はどこへやら、にへらと人懐っこい笑顔を向け軽く頭を下げると謝罪の言葉を口にした。
その雰囲気にこっちも警戒するのが馬鹿らしくなり、特段気にしていない事を伝える。本当は心臓が早鐘を打っていたがそれは言わないお約束。
「それで君たちも僕たちと同じ目的ということは、件のダンジョンの調査と攻略に来たってことだよね?」
「うむ「えぇそうでございます」・・・」
どうやらもう我に喋ることは一言さえ許されないらしい。今回は先ほどと違って話の流れも理解しているつもりだったし、問題ないと思ったのだが信用がない以上仕方がない。もうこの状況はすべて元部下に任せてしまおう。
「ダンジョンに入った冒険者達が”な ぜ か”生きたままダンジョン入り口に返されるという謎の現象の原因を突き止めるのが私たちの目的でございます。目的に違いはございませんでしょうか?」
アイアン・メイデンが怪しまれないように最低限の探りを入れる。なぜか、の部分を僅かに強調して言いながらちらりとこちらを見てきたのに意味はないのだろう。
「そうだね、僕を含めここに集まっている冒険者たちは守護者のダンジョン、
別名呪われたダンジョンの真相を確かめるために来たんだ」
「呪われたダンジョン、ですか?」
流石にアイアン・メイデンも気になるところがあったのかそう問い返す。なぜなら我のダンジョンは不慮の事故で人間を殺してしまっていたとはいえ、多くの人間は無事に返していた。そのどこに呪いの要素があるのだというのかいささか不満である。
「知らないのかい?結構有名な別名らしいんだけどなぁ・・・まぁいいや、僕も詳しくは知らないんだけどそのダンジョンから外に返された冒険者の多くが常に何かに怯えたように振る舞い、中でも症状の酷い者は発狂してその命を絶つこともあるらしいんだ」
そういうことが多く起こったことから、あのダンジョンには得体のしれない何かが存在している。呪いをかけた人間をあえて生きて返し、その後に狂ってしまう様を想像して楽しむ魔物がいると言われ始めてから呪いのダンジョンになった。とのことらしい。
しかしそのダンジョンの長だったがまったくもって身に覚えがない、自分に思い当たる節がなかったので元部下にも視線を向けるが珍しく困惑しているようだ。
「不可思議なことではありますが、あのダンジョンにそのような魔物の存在は確認されてないのでは?」
「だからこその今回の大規模調査だよ!本当に君たちは何も知らずに調査依頼を受けたんだね~」
「なるほど、そうですね我々は少し調査に入るには情報不足が過ぎました。そういう事情があったのでしたら一度町へ戻って出直すことにしましょう。情報提供いただき感謝いたします」
そういって深々と頭を下げるアイアン・メイデン。それに対してわたわたと手を振り「気にしないで」と若干のテレを見せながら言う緑髪の女性。そんなやり取りを少しして冒険者一行と別れる間際にその女がとんでもない爆弾発言を残していった。
「それでは皆様のご武運を祈っております」
「心配ありがと!でも大丈夫、何たって僕は”勇者”だからね!どんな魔物がいようとすぐに攻略してみせるよ♪」
その発言を聞いて、安堵感と共に嫌な感覚が全身を駆け巡るのを感じたアイアンであった。
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