第20話

ゴリゴリと何かを削るアイアンゴーレム。そしてそれを訝し気にただ見ている黒のシスター。


「ねぇ、本当にそれをこの子にのませるの?余計に様態が悪化しそうで嫌なんだけど」


「気持ちはわからんでもないがこれが一番手っ取り早いのだ、我慢しろ」


我が今削っている物の正体は、自身の魔力によって生成された外装の欠片。何だかんだと度々登場する便利アイテムだ。そしてアイアンゴーレムは自らの体の一部を白のシスターにのませようというのだった。


「そりゃこの子のためならって一度承諾したのは私だけど、やっぱり多少時間がかかってもいいから今から他の方法にしない?」


「今更文句を言うでない。そ奴を死なせたくはないのだろう」


廃院から逃亡してから体が修復しきるまで既に丸一日と少しが経過している。これ以上白いシスターをそのままにしておくわけにもいかないのは黒いのも分っているはず

我がそういうと黒のシスターは言葉を詰まらせそれ以上の文句は言わなかった。


「それで結局シラスの倒れた原因の魔力氾濫?について教えてくれるのよね」


「あぁ、そうだったな。魔力氾濫とは本来本能的に使用を制限しているはずの内包魔力のリミッターが外れ、際限なく使い切れてしまうという一種の病みたいなものだ」


「やっぱり病気なのね!?あの子は治るの!どうなの!言いなさいよ!」


「おいこら揺らすな」


魔力氾濫について話し始めると黒のシスターが突然取り乱す。

(もうやだこの黒いの怖い)

そんなに揺らされてはまともに話もできない。仕方がないので欠片を砕くのを中断して肩をつかんでいる黒いのの手を引き離す。それとついでに宝物庫を弄り中から青色の液体と緑色の液体が入った小瓶をいくつか取り出し、黒いのにぽいと投げ渡した。


「どういうつもり?」と投げ渡されら小瓶を見ながら困惑する彼女


「昔ダンジョンに攻め入ってきた冒険者どもから頂いたマナポーションとライフポーションだ、別に毒など入っておらん。ここに逃げるまでに貴様も消耗しただろう、それを使え」


「信用できないわね、まぁ要らないなら貰っておくわ」


受け取りはするもののそのポーションに口をつけることはなかった。思っていた以上に未だ信用を得てはいないようだ。とはいえ強制することもできないのでひとまずは受け取ってくれただけで良しとする。


「それでなんだ、どこまで話したか・・・あぁ一種の病だというとこまでは話したな」


「えぇ」


流石に二度目の取り乱しはない様で一先ずは話を進めることができる。


「もう少しかみ砕いて話すがこの病、魔力氾濫は良い言い方をすれば限界突破。何よりも強くなりたい、命を懸けても何かを守りたい。そういった強い意志によって限界以上の魔力、まぁ力だな。これを引き出すことができてしまう事がある」


「でもそんなことをすれば身体は・・・」


「確実に蝕まれていく」


断言するアイアンに対して息をのむ黒いシスター。そして理解する、妹の身体が本当の限界を迎えようとしているという事を。


「時間に個人差はあれど魔力自体はいくら使おうが自然と回復する。それこそ限界ぎりぎりまで使おうと使い切りさえしなければだがな。・・・・しかし身体は違う、負荷を掛け続けた結果魔力回路が焼き切れ倒れる者を何度か見たことがあるのだ」


「っ!じゃあやっぱりシラスは・・・・」


ついさっきの元気はどこへ投げ捨てたのか、黒のシスターは白のシスターの傍に座り込み震える手で永遠にも思える時間眠り続ける妹の頬に手を触れ静かに涙を流す。


「あなたが無理してるのに気づかないなんて私はお姉ちゃん失格ね」


「・・・そんなこと、ないよ」


「シラスっ!?」


魔力枯渇で倒れてからというもの死んだように眠っていた白いのが目を覚ましたようだ。


「お姉ちゃんはいつでも私の事を考えてくれてた。どれだけつらい時だって、悲しい時だってお姉ちゃんがいつも安心させてくれる。本当に感謝してるんだよ、だからね、私もそんなお姉ちゃんを守りたかったんだ・・・・」


そう言い残し、シラスと呼ばれた白のシスターはまたその瞳を閉じてしまった。

それと同時にわんわんと泣き出してしまう黒のシスター、なんとも悲しいシーンをまじまじと見せつけられ言葉を発するに発せなかったのだが、悲しみに暮れる黒いのの肩をとんと叩き


「悲しんでいるところ悪いのだが、こいつを飲ませるから少し退いてはくれぬか?」


そういうとバッと勢いよく彼女は振り返り、再三突き付けていたナイフを飽きもせずまた突き付けてくる。その表情は怒りと悲しみでぐちゃぐちゃのようだが、その感情を我にぶつけられても困る。


「あんたみたいな魔族にはわからないでしょうね!家族を、最愛の人を失う悲しみなんて!!」


「ま、待て!だから落ち着けと言っておるだろう!すぐ我を忘れおって・・・お前ら人族はどうしてまともに話を聞かないのだ」


一旦拘束を振りほどき、粉状に磨り潰した自身の欠片の入った器を彼女に差し出す。


「勝手に絶望して我を殺そうとするな、そ奴は我が救う約束だろうが」


「約束、あなたは本当に・・・それにこれはさっきから磨り潰していた汚い黒欠片」


汚いとかいうな。といってやってもよかったがこれ以上こじれるのはもう何か面倒くさい。ただでさえ面倒くさいことに巻き込まれすぎて疲れているのだ、そろそろ解放してほしい。その一心でシスター二人に全力で手を貸す。


「それを、こいつと一緒に飲ませるがいい」


そういうと宝物庫から金色に輝く小瓶に入った液体を取り出しシスターに渡す。


「なっ!?これって『生命の樹液』こんな貴重なものを!?」


生命の樹液とは伝説の植物と呼ばれている『ユグドラシル』からのみ取ることができる、四肢が欠損していようと瀕死の状態であろうと生きてさえいるのならばたちまち元の状態に回復させてしまうという代物だ。


「そんなに我の欠片を飲ませるのが嫌か、でも残念だな我の欠片も共に飲ませねばそ奴の病は完治しないぞ」


そこまで言ってもまだ何か思う事があるのか、飲ませる直前で手を止めてしまう黒のシスター。このままではらちが明かない、そう思った我は多少強引な手段に出る。


「貴様が飲ませらぬのなら代わりに我が飲ませてやろう。ほら口を開けろ」


「ちょ、ちょっと!」


白のシスターの身体を少し起こし、顎に手をかけ口を開かせる。その違和感に不快感があったのか白のシスターが微かに意識を取り戻す。


「起こす手間が省けたか」


次に金色の液体生命の樹液とアイアンゴーレム印の黒片を流し込み飲ませた。一瞬不快感に顔をしかめる白いのだったがすべて零さずに飲み切ったのでひとまず安心か。


「今はゆっくりと眠るがいい」

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