無人島サバイバル How to survive on a desert island.
綿貫瑞人
第1話 墜落
はじまりはいつだって突然だ。
修学旅行へ向かう飛行機が、雲の上を優雅に飛んでいるとき、大きな音が聞こえた。
飛行機の後部で、何かが吹き飛んだような、そんな衝撃音。
聞き間違いじゃない。
現に他の乗客たちがざわめきだすと、客室乗務員が乗客を安心させようとアナウンスを始めた。
そこでいったんは落ち着いたように見えた。
でも僕はまだ嫌な予感で胸騒ぎがしていた。
耳が詰まったような感じもする。
気圧が変化しているのか?
「……ん」
隣で身じろぎする気配を感じて視線を向けると、同じクラスの委員長――白川麻衣が眠りから覚めようとしていた。
「おはよう、白川さん」
「……おはよう。結城君どうかした? 顔色悪いわよ」
「さっき何かがあったらしい」
「何かって――きゃっ」
白川さんが言い終わらないうちに、今度は大きな揺れがきた。
それとほぼ同時に、頭上から酸素マスクが降ってきた。
まさか――
飛行機事故などで、酸素マスクが必要なほど気圧が下がったとき、意識を失うまでの猶予時間は数十秒程度だといわれているのを思い出し、僕はとっさにそれを手に取って、素早く装着した。
「白川さんもはやくマスクを」
状況を把握できていないのか、白川さんは酸素マスクを装着していなかった。
僕は目の前で跳ねるように揺れるマスクをもう一つ掴んで、白川さんの鼻と口を覆うようにあてがった。
「あ、ありがとう」
「礼を言うのはまだはやい」
機内はさっきのざわめきとは明らかに異なるパニックが広がっていた。
客室乗務員が酸素マスクの着用を促しているが、それを正しく装着できていない人もいるようだ。
マスクから鼻が出ていると効果が低下するのだが、パニックでそれを気にしている様子はない。
かくいう僕たちもそれほど余裕はないので、他の乗客は客室乗務員に任せるしかない。
パニックにならないように深呼吸を繰り返して、いま出来ることを考える。
「これから万が一の不時着に備えて準備しよう」
「不時着って、まさか墜落なんてしないよね?」
「わからないけど、備えておいて損はない」
「そ、そうね」
離陸前に客室乗務員から受けた説明や、事前に調べた内容を思い出す。
「シートベルトはお腹じゃなくて、腰骨のあたりで締めて、間に毛布などクッションを挟むと、内臓に負担がかからないはずだ」
場合によっては内臓破裂などの危険があるので、これは重要だ。
シートベルトの位置や緩みを調整しながら、白川に説明する。
「次は救命胴衣の準備。これはまだ身に付ける必要はないだろうけど、場所を把握しておかなくちゃいけない」
救命胴衣は機体によって、収納場所が異なるのでとっさに見つけることができないと、緊急時に間に合わなくなる可能性がある。
幸い離陸前の説明をしっかり聞いていたので、すぐに見つけることができた。
「あとは非常口の場所を確認して、着陸時に対ショック姿勢をとるくらいかな」
「対ショック姿勢?」
「頭を下げて、腕で抱えるように守るんだ」
「それで助かるの?」
「1%でも確率が上がればいい。そもそも飛行機は世界で一番安全な乗り物のひとつといわれているし、僕たちがいる後部のエコノミー席は、前方よりも生存率は高いんだ。きっと大丈夫さ」
「そうよね。きっと助かるわ」
白川が自分に言い聞かせるように呟いた。
それからしばらく――十分か一時間か、時間の感覚が狂うような緊迫した状況のなか、客室乗務員が救命胴衣の装着を指示し始めた。
つまり本機は危険水域にあるということだろう。
僕たちは速やかに救命胴衣を着用して、最悪の事態に備えた。
客室乗務員の声に耳を傾ける。
救命胴衣を膨らませるのは、飛行機の外に出てから。
そうしないと、脱出の妨げになって、逆に危なくなる。
――云々。
これでできることはもう何もない。
そしてついにその時が来た。
機体が大きく揺さぶられ、なにかがへし折れるような轟音と衝撃に襲われた。
明らかにハードランディングだった。
対ショック姿勢をとっていたものの、全身を激しく揺さぶられ、意識が細切れになっていった。
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