第5話 夜鷹家と三姉妹−A
「ただいまー」
ひばりがそう言って家に帰ると、キッチンから小学生の女の子が顔を覗かせる。
出迎えたのはひばりの妹、夜鷹うずら(十歳)だった。
「あっ、ひば姉おかえり! 今日はバイトじゃなかったの?」
「色々あってバイトは休んできた。それより、うずら、晩飯のおかずは余ってる?」
「うん! ひば姉の分ならまだ――って、ひば姉の隣にいる人誰!?」
「わたくしはナイトメア・アスモデウスと申します。メアと呼んでください。ひばり先輩が晩ご飯をご馳走してくれると言ってくれたので来てしまいました! お邪魔致します!」
メアは愛想よくうずらに微笑みかけるが、うずらはメアの顔を見るなり慌てて二人に背を向け、部屋の奥へと逃げていった。
「ちょっ! こらっ! うずら! お客さんに挨拶くらいしろっての!」
「か、かも姉〜っ! ひば姉が知らない人連れてきた〜っ!」
ひばりはうずらを叱るが、うずらはただ逃げただけではなく、誰か別の人物を呼んでいた。
「あら〜? ひばりちゃんがお友達を連れてくるなんて珍しいわね〜……ハッ! まさか男!?」
部屋の奥からドタドタと忙しない足音が迫ってくる。
「交際なんてお姉ちゃんは認めませんよ! うちのひばりは誰にも渡さないんだから!!」
ドスン、と床を踏みしめて現れたのはひばりと顔立ちが似た成人の女性だった。
夜鷹かもめ(二十三歳)、ひばりとうずらの姉である。
「お姉ちゃん、ただいま。安心しなよ、彼氏とかじゃないから。そもそも女の子だし」
「初めまして。ナイトメア・アスモデウスと申します。メアと呼んでください」
「あら〜あらあら。そうだったの? ごめんなさいね、早とちりしちゃって。私は夜鷹家長女の夜鷹かもめです。よろしくね、メアちゃん」
かもめはひばりの連れてきた人物がひばりと同年代の少女だと知ると態度を一変させた。
「悪いんだけどお姉ちゃん、今晩、このメアをうちに泊めてやりたいんだけどいいかな?」
「うふふ、いいわよ〜。可愛い女の子だったら、お姉ちゃん大歓迎。ささっ、あがってあがって」
メアは個性的な夜鷹家の人々に困惑しながらもひばりを追って部屋にあがった。
✕ ✕ ✕
夜鷹家は築四十年のオンボロアパート『薄雪荘』の二○一号室に姉妹三人で暮らしている。
メアと夜鷹家三姉妹は畳の敷かれた居間でちゃぶ台を囲んで座っていた。
「どうぞ。これ、私が作りました」
うずらがメアに晩ご飯の皿を差し出して言った。
「これは……じゃがいもとお肉を煮込んだ料理ですか?」
「肉じゃがって料理です。うちの晩ご飯は全部私の手作りなんです」
メアは箸の扱いに苦戦しながら肉じゃがを一口食べるとその美味しさに感動した。
「な、何という美味な料理なのでしょう。じゃがいもとお肉だけなのに、こんなにも奥深い味わいを感じられるなんて……さぞかし高級で新鮮な食材を使っているのですね!」
「材料はスーパーで半額だった見切り品の食材だけですけど……」
メアはすっかり肉じゃがの虜となり、ひばりの分まで完食してしまう。
「ご馳走様でした!」
「すごい食べっぷりね。フードファイターみたいだったわ」
「まあ、うずらの作る料理は何でも美味しいし、気持ちはわからなくもないけどさ」
「えへへ。メアさんに肉じゃがを気に入ってもらえて良かったです」
「こんなに美味しい晩ご飯をいただき、感謝感激です!」
「それは良かった。……さて、改めて紹介しようかな。あたしたちは三姉妹で、このあたし、夜鷹ひばりは次女。お金を稼いで家計を支えるのが主な役割。三女の夜鷹うずめは家事担当。炊事洗濯掃除家計の管理はほぼ全てこの子がやっているから、この子がいないとあたしたちの生活は成り立たない。そして、長女の夜鷹かもめは穀潰しだ。以上」
「ちょっと待ってひばりちゃん! お姉ちゃんだけ紹介が酷くない!?」
「だって、お姉ちゃんだけ三姉妹の中で唯一何もしていないじゃん。社会人なのに働きもせず、あたしの稼いだお金をゲームの課金で無駄遣いしたり昼間はずっとゴロゴロしたり」
「いやいや! お姉ちゃんだってネット小説家って職業があるんだからね!」
「収入は?」
「あと数ヶ月後には書籍化の打診が来て、印税で大儲け出来る予定よ!」
「つまり現在は無収入じゃないか」
ひばりとかもめはそのまま言い争いを始めるが、それを見ていたメアは優しげな微笑みを浮かべた。
「メアさん、うちのうるさい姉たちがごめんなさい」
うずらは申し訳なさそうに言うが、シアは首を横に振った。
「いいえ、姉妹喧嘩が出来るなんて仲が良さそうで少し羨ましく感じてしまっただけです」
そう言って俯いたメアの瞳にはどこか悲しげな感情が宿っていた。
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