第15話 ひばりと幼馴染-A

「ふぅ……夜風が心地良いです」


 とある日の深夜、冷蔵庫を開けたメアは牛乳がないことに気づき、買い物に出かけようとしていた。


「(ひばり先輩は……まだバイト中でしょうか)」

「あら? メアじゃない。こんな夜遅くにどうしたの?」


 メアが考えごとをしながら薄雪荘を出ると、ちょうどそこで一人の人物にばったりと出くわす。


「ア、アリカさん! お久しぶりです!」

「……? お久しぶり。そう言えば、こうして直接会うのは初めて会った時以来ね。私の方は毎朝あなたが登校するところを見てるけど」

「ええっ!? そうだったんですか!? 話しかけてくれたら良かったのに!」

「ごめんなさい。ただ、いつも登校する時のあなたは落ち込んでいるようにも見えたから話しかけづらかったの」

「あれはその……ひばり先輩と一緒に登校出来たらいいなっていつも思うのですけど、なかなかうまくいかなくて……」

「どうせあのバイトバカは朝も帰って来ていないんでしょ? 呆れちゃうわ」

「ところで、アリカさんこそこんな時間にどうしたのですか? ひばり先輩に会いに来たのですか?」

「私は少し散歩をしてきた帰りよ。今日は風が気持ちいいもの」


 アリカはスウェットに短パンと明らかに部屋着感のあるお嬢様学校の生徒に似つかわしくないラフな格好をしていた。


「(金髪だから、その格好だとなんだか不良みたいに見えますね)」

「今失礼なこと考えなかった?」

「い、いえ!」

「……ねぇ、あなた、今から時間ある? ちょっとした提案なんだけど、ひばりに会いに行ってみない?」

「ふえ?」


 何かを企んでいそうな悪い笑みを浮かべるアリカの言葉にメアはきょとんとした反応を返す。


 ✕ ✕ ✕


「しゃーせー」


 その日の夜、ひばりはコンビニでアルバイトをしていた。


「(ん? なんだあの二人……)」


 レジに立っていたひばりは店内で何やらコソコソと怪しげな動きをしてちらちらとひばりの様子を伺う金髪と黒髪の二人組が気になっていた。


「(あれって、どう見てもアリカとメアじゃん)」


 マスクと帽子を被り、変装をしているつもりのアリカたちだったが、ひばりには一瞬で正体を見抜かれていた。


「しまったわね……ひばりに怪しまれているわ」

「こっそりひばり先輩の仕事を観察したかったですがどうしましょう?」


 一方でアリカとメアは棚に隠れてヒソヒソと話し合いを始める。


「しょうがないわね。ここは一旦撤退よ。店の外に出てひばりの警戒度を下げるわ」

「了解です。あ、でも、その前にお買い物をしてきてもいいですか?」

「正体を悟られないように気をつけるのよ」

「イエッサー」


 ――十数秒後。


「あの、これとこれをお会計お願いします」

「……毎度ありがとうございまーす」


 メアは牛乳と一冊の雑誌を手に持ってひばりのいるレジにやってきた。


「支払いは千円から……」

「その前にお客様、身分証などをお持ちではございませんか?」

「ぴゃい!?」


 ひばりに鋭い目で睨みつけられたメアは思わず変な声を出して驚いた。


「ど、どうして……」

「ルールなんです。失礼ですが、お客様は見たところまだ学生ですよね?」


 ひばりはメアの買おうとした雑誌を一瞥する。


「こういう雑誌は十八歳未満の学生には売れない決まりになっていますから」


 メアの買おうとした雑誌は成人向けの写真集――所謂エロ本だったのである。


「(そんな……人間界では春画を買うことに年齢制限があったなんて……)」


 文化の違いによる落とし穴に嵌ったメアは青ざめた顔をする。


「身分証を見せられないなら警察を呼びますよ。……それでもいいのかな? メアさんよ」

「うっ……うっ……ごめんなさいでした……」


 そうして、メアはひばりに捕まり、アリカ共々店のバックヤードに連行されることになった。


 



 

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