第14話 うずらとお買い物−B
「メアさん、今日はお買い物を手伝っていただきありがとうございます」
スーパーからの帰り道、うずらは隣を歩くメアにお礼を言う。
「いえいえ、こちらこそお役に立ててなによりです。それにしてもうずらちゃんは本当にしっかり者ですね。きっと将来は良いお嫁さんになると思います」
「お嫁さん……ですか」
しかし、メアの褒め言葉にうずらは不安そうな表情をした。
「お嫁さんにはあまり興味がないですね……」
「ええっ!? そうなのですか!?」
「だって、私は男の人と結婚したいと思っていませんから。男の人ってデリカシーがなくて好きになれないんです」
「ははーん。さてはうずらちゃん、学校で男の子にまた何かされたのかな?」
かもめが話に割り込んでニヤニヤとした顔でうずめを見る。
「……今日、クラスの男子にスカートをめくられました」
「そ、それは災難でしたね……」
思い出したようにムッとした表情でそう語るうずらにメアは同情する。
「いいじゃないの、パンツを見られるくらい。小学生男子のそういういたずらは意外と愛情の裏返しだったりするのよ」
「先日、わたくしもかもめさんにパンツを覗かれましたが、もしかしてかもめさんは私のこと……」
「私、小学生男子と同レベルに思われているのかしら?」
「かも姉の場合は警察に捕まるよ。それより、私としてはかも姉が早くお嫁さんになって家から出ていって欲しいな」
「あらあら、うずらちゃんったら、お姉ちゃんの婚期を心配してくれるのね。でも、大丈夫! お姉ちゃんは可愛い妹たちがいてくれたらそれだけで充分よ!」
「何言ってるの? かも姉がいなくなれば家計の負担がかなり楽になると思って言ったんだけど?」
「あらあら、うずらちゃんったら、変な冗談は止めて欲しいわ」
「(うずらちゃんの目が本気だったのですが……)」
うずらはのほほんと笑うかもめを無視してメアにちらりと視線を向ける。
「はあ……メアさんが私の姉だったら良かったのに」
「ええっ!? わたくしですか!?」
突然話の引き合いに出されたメアは困惑する。
「いいわね! それなら夜鷹四姉妹になって賑やかになりそうね!」
「かも姉はリストラだよ。夜鷹家の姉妹は三人用なんだ」
「そんなあっ!」
ガーン、とショックを受けたかもめは涙目になって落ち込む。
「どうしてわたくしなんか……」
「メアさんが私の憧れるような優雅でお淑やかな女性だからです。私、大きくなったら、メアさんのように清楚な女性になりたいです」
「(清楚というのはサキュバスらしくないので、なんだか複雑な気持ちです)」
「あの……メアさんのことを『お姉さま』と呼んでもいいでしょうか?」
「お、お姉さまですか? 出来ればひばり先輩やかもめさんみたいにメア姉って呼んでくれると嬉しいですけど」
「……メア姉さま」
「(さまは付けるのですね……)」
うずらから羨望の眼差しを向けられて、メアはこそばゆい気持ちになる。
「でしたら、わたくしと話す時は敬語を使わなくても大丈夫ですよ」
「えっ……でも、私だけ敬語じゃないのは……」
「わたくしは誰にでも敬語で話す癖がついてしまっているので直しようがありませんが、うずらちゃんとわたくしは姉妹なのですから、話す時に畏まる必要はないと思います」
「じゃ、じゃあ、よろしくね……メア姉さま」
「はい! こちらこそ、よろしくお願いします!」
照れながら上目遣いでメアを見上げるうずらにメアは目を合わせて笑みを浮かべた。
「(新しいお姉ちゃんが出来て良かったわね、うずらちゃん)」
そんな二人をかもめは微笑ましそうに背後から眺めていたのだった。
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