第12話 かもめとお留守番−B
「じょ、冗談ですよね?」
「私は本気よ。この新作小説を面白くするためにはあなたがパンツを見せてくれる必要があるの」
かもめから『パンツ見せて』というお願いをされたメアは咄嗟に立ち上がってスカートを手で押さえながら後退る。
「よく考えてちょうだい。この小説の主人公は下着泥棒なのよ。だから、パンツの描写はリアリティがないといけないの! 目の前に現役女子高生がいるのなら、私は小説のためにパンツを覗くわ!」
「すみません。言っていることがよくわかりません」
「さあ! スカートをたくし上げて!」
「いくら女同士でも恥ずかしいですよ!」
顔を真っ赤にして目を瞑るメアだったが、その隙を見逃さなかったかもめは頭を抱えてからシア股下に滑り込み、仰向けに寝転ぶ。
「見えたわ! 白とピンクのチェック柄ね!」
「んぎゃああああっ!」
悲鳴をあげたメアは部屋の端まで逃げる。
一方でかもめは満足した表情で急いでパソコンに向かい、軽快にキーボードを叩き始めた。
「ふふっ、今の反応、すごく良かったわ! アイディアがどんどん湧いてくる! この感動を実感出来るうちに文章にまとめなきゃ!」
メアがへたり込んでかもめの姿を眺めていると、かもめが突然手を止めてメアの方に振り向いた。
「メアちゃん、怯えながらも私を蔑むようなその目、とても素晴らしいわ!」
「へ、変質者……」
メアの中でかもめの印象は初対面の頃と比べてガラリと変わっていた。
かもめは不気味な笑みを浮かべてゆっくりと這いながらメアに近づいてくる。
「ブラの方はどうなっているのかしら? お姉さんの小説のために見せて欲しいわ」
「ひ、ひえぇ……ち、近づかないでください」
「先っちょだけ。先っちょだけでいいから見せてちょうだい」
「それ絶対先っちょだけじゃ済まないですよね!?」
かもめは恐怖で動けないメアを逃げ場のない部屋の隅まで追い詰めた。
だが、かもめはメアに夢中で自分の背後にも誰かがいることを気づいていなかった。
「お姉ちゃん、一体何をしているのかな?」
かもめが振り返ると、そこにはバイトから帰ってきたひばりが立っていた。
「あっ……お、おかえりなさい、ひばりちゃん。どうしたのかしら? そんなに怖い顔をして」
ひばりはゴミを見るような目で姉を見下ろし、右手の拳骨をかもめの脳天に振り下ろした。
✕ ✕ ✕
それから数日後、
「メアちゃ〜ん! 聞いて聞いて!」
登校しようとするメアを見つけたかもめがメアの前に立ち塞がる。
「ひいっ!? 今度は何ですか!?」
メアはまた何かをされるのではないかと考えて身構える。
「そんなに警戒しなくても大丈夫よ。今回は良いニュースを知らせに来ただけだから」
「良いニュース? 何があったのですか?」
メアが恐る恐る尋ねると、かもめはフッと笑ってドヤ顔をする。
「喜んでちょうだい! この前、あなたにパンツを見せてもらったことを小説の内容に生かしてみたら、PVが二十くらいに増えるようになったの!」
「それは……すごいことなのでしょうか?」
「別に全然すごくないわ。この程度だと作家デビューは夢のまた夢ね」
メアはそれを聞いて思わずズッコケる。
「だけど、これは大きな進歩よ。だって、今まで私の小説なんてひばりとうずらくらいしか見てくれていなかったもの。十倍に増えたと考えれば充分な成果だと思わない?」
「そ、そうですか。よくわかりませんが、かもめさんのお役に立てたのなら嬉しいです」
「ところでメアちゃん、またアイディア発掘のためにお手伝いをしてもらえるかしら?」
「それはもう結構です!!」
メアは涙目になってかもめから逃げ出したのだった。
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