第22話 ひばりとナイトメア−B

「なっ、この娘、正気か!?」


 ひばりがメアと口づけを交わしたことにラプチャーは衝撃を受ける。


「……せ、せんぱい?」


 次の瞬間、メアの瞳に光が戻り、ラプチャーの魔術を解くことに成功した。

 ひばりは唇を放し、メアに微笑みかける。


「やっと目が覚めたワケ? しっかりしてよね、あたしのオヒメサマ」

「ど、どええええっ!? どうしてわたくし、先輩とキキキキスををををををっ!?」


 メアは真っ赤な顔でベッドの上をごろごろとのたうち回る。


「ひばり、あなたはメアの気持ちに気づいてたの?」

「いや、適当だけど、やるしかないと思ったから」

「そんな……メアが人間界の……それも女に誑かされていた?」


 ラプチャーはひばりに強い敗北感を抱き、ぺたんと床に座り込む。


「ちちち違います! わたわたくしは決して先輩のことが好きとかそういうのではなく! いえ、尊敬しているという意味では好きですけど!」

「だろうね。ビッチを目指してるメアが女を好きになるなんてあり得ないし、きっとラプチャーの魔術が大したことなかっただけさ」


 大慌てのメアの言い分を信じたひばりがメアの気持ちに気づくのはまだ先になるようだった。


「……鈍いわね、ひばりって」

「何か言った?」

「なんでもないわ」


 ひばりがアリカと話していると、メアはラプチャーに近づいていく。


「メア、そいつは危ないぞ」

「少しだけお話をさせてください」


 ラプチャーの前に立ったメアは姉と目を合わせる。


「お姉さま。わたくしはまだ恋もしたことがない落ちこぼれのサキュバスです。けれど、人間界にいて、わたくしはなりたいものを見つけました。――それは人を無意識のうちに惹きつけてしまうような魅力の溢れる人です。わたくしはその人に『ビッチ』の師匠として憧れています」

「余は貴様を落ちこぼれだとは決して思っていないのだがな。だからこそ、余を超える高級娼婦にしようと決意したのだが、なるほど、もう貴様にはなりたいものがあったのか」


 ラプチャーはひばりに目を向ける。


「小娘、人間界では妹のことを頼んだぞ」


 ひばりは無言でメアの手を取り、ラプチャーに背を向けた。


 ✕ ✕ ✕


 それから数日後、


「先輩♡ 今日も『ビッチ』の修行、お願いします!」


 学校でひばりを捕まえたメアは満面の笑みでひばりにすり寄る。


「ふむ。一件落着ですね」

「……どうしてあなたまで人間界についてきているのよ、スケベ馬」

「私は処女のいるところならどこでも現れますよ」


 二人の様子をアリカとペガサスは眺めていたが、学校にケンタウロスが出没したという噂が流れ、その後、少し問題になるのだった。


「えへへ、先輩は私の尊敬する『ビッチ』です! どこまでもついていきます!」

「あ、あのね。学校でビッチ呼ばわりされるとあたしも困るんだけど……しょうがないなあ」


 純情な二人の『ビッチ』修行はまだまだ続いていくのだった。

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よだかメイデン!〜見習いサキュバスは処女ビッチ先輩の弟子になりたい〜 Laurel cLown @enban-tsukita

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